2024年03月24日「十字架のイエスの愛」

　今年は、今日の日曜日から、イエス・キリストの十字架の苦難を覚える受難週に入ります。神の御子イエスは、紀元30年頃の春のある金曜日に十字架につけられ、葬られましたが、日曜日の朝、復活されました。それを祝うイースター（復活祭、復活節）が今年は来週の日曜日になります。全世界の救い主、神の御子イエスの誕生を祝うクリスマス同様、イエス・キリストの十字架と復活の意義を毎年覚えること程、感謝なことはありません。

　そこで今朝は、ルカの福音書23:32以降から、十字架に表されたイエスの愛を改めて覚えたいと思います。

　その一つは、人間の究極の問題である私たちの罪に対する主イエスの愛です。

　「どくろ」と呼ばれる所で、イエスは犯罪人2人と共に十字架につけられました。イエスは、前夜捕えられ、一晩中引き回され、死刑判決の後、茨の冠を無理やりかぶせられました。また、それだけで人が死ぬぐらい残酷な鞭打ちを屈強なローマ兵から受け、刑場まで重い十字架を負わされました。もう立ち上がれないぐらい、弱っておられました。

　通常、受刑者は横に倒した十字架上に寝かされ、拡げた両手首と重ねた両足の甲に太い鉄釘が打ち込まれて十字架に固定され、掘った穴にドスンと落されて十字架は立てられました。何という激痛でしょうか。

　その上、イエスは、創り主なる真（まこと）の神に逆らって生きている全人類に臨むべき神の聖なる怒りと呪いを全て背負われ、普通の受刑者とは比較にならない想像を絶する苦痛が臨みました。しかし、その十字架上のイエスの口から真先に出た言葉は何でしょうか。祈りでした。それもご自分を殺そうとする人たちの赦しを願う祈りだったのです。34節「父よ、彼らをお赦し下さい。彼らは、自分が何をしているのか分っていないのです。」

　私たちならどうでしょう。苦痛に呻き、私たちを苦しめ殺す人たちを呪い続けるかも知れません。けれども、イエスは違いました。「父よ、彼らをお赦し下さい。彼らは、自分が何をしているのか分っていないのです。」何というイエスの愛でしょう！

　実はこの主イエスの赦しの愛は、今、私たちにも注がれているのです！ですから、自分の罪や過ちを私たちが正直に認め、今天におられるイエスに心底赦しを願うなら、イエスは必ず私達を赦して下さるのです。

　ところで、罪とはそれ程大問題なのでしょうか。はい、そうです。大問題です。人は死を前にしますと、必ず自分の罪を意識します。長年、死刑囚のカウンセラーをされた、医者で作家の加賀乙彦氏は、死を前にした死刑囚の心境をこう述べておられます。「死よりも死後のことが怖い。本当に怖いのは、この世で犯した罪の赦しが得られないことである。」死が迫りながら、自分の罪が赦されず、永遠に裁かれる！どれ程の恐怖でしょう！

　では、死刑囚ではなく、普通の人間ならどうなのでしょう。重い病などで死を前にした人には、肉体的・精神的・社会的痛みと共に、魂の大きな痛み（霊的痛み）があります。そして、魂の痛みの一つは罪責感です。「自分がこうなったのは、私が犯したあの罪の報いなのだ」という魂の痛みが人にはあるのです。

　死は私たちの人生の集大成の時です。自分の一生を問われるのです。人間の究極の問題が罪であることが分ると思います。

　

　しかし、自分では到底償えない、神と人に対して、思いと言葉と行いにおいて犯した私たちの罪の全てを、正にイエスの十字架は償うものであり、しかもイエスはご自分に敵対する者たちのためにさえ祈られました。「父よ、彼らをお赦し下さい。彼らは、自分が何をしているのか分っていないのです。」何というイエスの愛でしょう！十字架のこのイエスの愛にこそ、本来は絶望しかない私たち罪人の救いの究極の拠り所があります！詩篇130:3､4は祈ります。「主よ、あなたがもし不義に目を留められるなら、主よ、誰が御前に立てるでしょう。しかし、あなたが赦して下さる故に、あなたは人に恐れられます。」

　二つ目に進みます。何でしょうか。私たちの死に対するイエスの救いの愛です。

　

　人々はイエスを嘲笑い、一緒に十字架につけられた犯罪人の一人もイエスを罵り（ののしり）ました。39節「お前はキリストではないか。自分と俺たちを救え。」しかし、40節「もう一人が彼をたしなめて言った。『お前は神を恐れないのか。お前も同じ刑罰を受けているではないか。俺たちは、自分のしたことの報いを受けているのだから当り前だ。だがこの方は、悪いことを何もしていない。』そして言った。『イエス様。あなたが御国に入られる時には、私を思い出して下さい。』」

　他の福音書によりますと、彼も最初はイエスを罵りました。しかし、その後、イエスの祈りや様子に触れ、心に変化が起ったのです。彼は自分の犯した罪の重さを知っていました。そして彼もユダヤ人であり、人間が作った偶像の神々ではなく、天と地、そして私たち人間を造られた真（まこと）の神のことは分っていました。ですから、死後のことを当然恐れました。神に永遠に断罪されるからです。

　しかし、今、隣りにイエスがおられます。彼もイエスの評判を聞き、イエスのことを知っていたでしょう。しかし、今こんな状況で間近にイエスを見、その祈りや様子に触れ、心を動かされたのでした。「自分は死ななければならない。だが、この方は本当に神からの救い主だ。イエス様なら、このどうしようもない罪人の私を憐れみ、死んだ後、世の終りに救って下さるかも知れない。」

　とうとう彼は言いました。42節「イエス様、あなたが御国（みくに）に入られる時には、私を思い出して下さい。」

　「思い出して下さい。」この謙虚な願いに対して、イエスはどう言われたでしょう。43節「まことにあなたに言います。あなたは今日、私と一緒にパラダイスにいます。」イエスは言われました。「あなたも間もなく死ぬでしょう。しかし、それで終りではない。あなたは、世の終りどころか、『今日』、私と一緒に天国にいます」と。

　この人は、死の直前のこんな時に心から罪を悔い改め、イエスに自分の信仰を告白し、救いを願いました。イエスは約束されます。43節「まことにあなたに言います。あなたは今日、私と一緒にパラダイスにいます。」これがイエス・キリストというお方なのです。死の直前にも本当に救いのチャンスを下さる！何という愛であり、憐みでしょうか。

　だからといって、私たちは、さんざん勝手気儘（かってきまま）に生き、死ぬ直前になったら、イエスを信じさえすれば良いのだなどと、決して考えてはなりません。悔い改めも信仰も、神の賜物、つまり神から与えられるものに他ならないからです。現に、もう一人の頑なな男は信仰を与えられませんでした。ですから、悔い改めも信仰も、心に迫るその時が何より大切なのです。ヘブル人への手紙3:15は言います。「今日、もし御声（みこえ）を聞くなら、あなた方の心を頑なにしてはならない。」

　大切なことは、私たちの死と死後の永遠の裁きにも、イエスの救いの愛が本当に及んでいることです。十字架はそれを私たちに証ししているのです。従って、私たちに今後何が起り、どうなっても、絶対に救い主イエスを忘れてはなりません。救いを諦めてはなりません。死の数秒前でも心から悔い改め、「主よ、私を憐れんで下さい」と必死に主イエスにすがるのです。すると「まことにあなたに言います。あなたは今日、私と一緒にパラダイスにいます」という主イエスのお約束を本当に体験することを許されるでしょう。十字架は、神の御子イエスの愛の広さ、長さ、高さ、深さを証ししているのです。

　ところで、私たちは、究極の問題である罪と死からの救いは感謝なのですが、それより、今、自分が抱えている辛い問題から一時も早く救われたいかも知れません。そこで二つ程、お話して、今朝の説教を終ります。

　第一に、今抱えている辛い問題から早く救われたいのは分かりますが、だからといって、罪と死からの救いは先延ばしして良いのではありません。どうしてでしょうか。いつ、私たちは死ぬか分らないからです。今日の帰り道で、あるいは今晩、私たちは突然死ぬかも知れないのです。それなら、罪の赦しと永遠の死からの救いは、何より緊急の課題です。つい最も大切な神のことを後回しにし、愚かな判断をしやすい自分の不信仰を直ちに悔い改め、イエス・キリストへの信仰を、何より今、明確にしたいと思うのです。

　もう一つは、イエスの十字架が表わし保証している、私たちへの主イエスと父なる神の愛を信じることの素晴らしさについてです。

　物事がうまく行かず、大きな困難を抱えていますと、つい私たちは「もう駄目だ」と絶望的になったり、自暴自棄になりやすいですね。しかし、万物を創られた全知全能の真の神が私たちを愛し、責任をもってお導き下さることを知っていると、どうでしょうか。感謝なことに、私たちは前進できます。キリスト教信仰の最も素晴らしい点の一つは、問題は未解決でも、私たち自身は前に向かって歩めることです。問題それ自体は続いていても、神の愛を知る信仰者を神は背負い、必ず持ち運んで下さるのです。神は約束されます。イザヤ書46:4「あなた方が年を取っても、私は同じようにする。あなた方が白髪になっても、私は背負う。私はそうして来たのだ。私は運ぶ。背負って救い出す」と。

　十字架を通して今も鮮やかに表されている主イエスと父なる神の愛！今朝、改めてこの事実を心に深く刻み、心の帯を固く締め、皆で支え合い励まし合って、天の御国を目指し、ご一緒に救いの道をしっかり踏みしめて行きたいと思います。