ヨセフの試み 2013年11月10日(日曜 夕方の礼拝)
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ヨセフの試み
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- 村田寿和 牧師
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創世記 42章1節~25節
聖書の言葉
42:1 ヤコブは、エジプトに穀物があると知って、息子たちに、「どうしてお前たちは顔を見合わせてばかりいるのだ」と言い、更に、
42:2 「聞くところでは、エジプトには穀物があるというではないか。エジプトへ下って行って穀物を買ってきなさい。そうすれば、我々は死なずに生き延びることができるではないか」と言った。
42:3 そこでヨセフの十人の兄たちは、エジプトから穀物を買うために下って行った。
42:4 ヤコブはヨセフの弟ベニヤミンを兄たちに同行させなかった。何か不幸なことが彼の身に起こるといけないと思ったからであった。
42:5 イスラエルの息子たちは、他の人々に混じって穀物を買いに出かけた。カナン地方にも飢饉が襲っていたからである。
42:6 ところで、ヨセフはエジプトの司政者として、国民に穀物を販売する監督をしていた。ヨセフの兄たちは来て、地面にひれ伏し、ヨセフを拝した。
42:7 ヨセフは一目で兄たちだと気づいたが、そしらぬ振りをして厳しい口調で、「お前たちは、どこからやって来たのか」と問いかけた。彼らは答えた。「食糧を買うために、カナン地方からやって参りました。」
42:8 ヨセフは兄たちだと気づいていたが、兄たちはヨセフとは気づかなかった。
42:9 ヨセフは、そのとき、かつて兄たちについて見た夢を思い起こした。ヨセフは彼らに言った。「お前たちは回し者だ。この国の手薄な所を探りに来たにちがいない。」
42:10 彼らは答えた。「いいえ、御主君様。僕どもは食糧を買いに来ただけでございます。
42:11 わたしどもは皆、ある男の息子で、正直な人間でございます。僕どもは決して回し者などではありません。」
42:12 しかしヨセフが、「いや、お前たちはこの国の手薄な所を探りに来たにちがいない」と言うと、
42:13 彼らは答えた。「僕どもは、本当に十二人兄弟で、カナン地方に住むある男の息子たちでございます。末の弟は、今、父のもとにおりますが、もう一人は失いました。」
42:14 すると、ヨセフは言った。「お前たちは回し者だとわたしが言ったのは、そのことだ。
42:15 その点について、お前たちを試すことにする。ファラオの命にかけて言う。いちばん末の弟を、ここに来させよ。それまでは、お前たちをここから出すわけにはいかぬ。
42:16 お前たちのうち、だれか一人を行かせて、弟を連れて来い。それまでは、お前たちを監禁し、お前たちの言うことが本当かどうか試す。もしそのとおりでなかったら、ファラオの命にかけて言う。お前たちは間違いなく回し者だ。」
42:17 ヨセフは、こうして彼らを三日間、牢獄に監禁しておいた。
42:18 三日目になって、ヨセフは彼らに言った。「こうすれば、お前たちの命を助けてやろう。わたしは神を畏れる者だ。
42:19 お前たちが本当に正直な人間だというのなら、兄弟のうち一人だけを牢獄に監禁するから、ほかの者は皆、飢えているお前たちの家族のために穀物を持って帰り、
42:20 末の弟をここへ連れて来い。そうして、お前たちの言い分が確かめられたら、殺されはしない。」彼らは同意して、
42:21 互いに言った。「ああ、我々は弟のことで罰を受けているのだ。弟が我々に助けを求めたとき、あれほどの苦しみを見ながら、耳を貸そうともしなかった。それで、この苦しみが我々にふりかかった。」
42:22 すると、ルベンが答えた。「あのときわたしは、『あの子に悪いことをするな』と言ったではないか。お前たちは耳を貸そうともしなかった。だから、あの子の血の報いを受けるのだ。」
42:23 彼らはヨセフが聞いているのを知らなかった。ヨセフと兄弟たちの間に、通訳がいたからである。
42:24 ヨセフは彼らから遠ざかって泣いた。それからまた戻って来て、話をしたうえでシメオンを選び出し、彼らの見ている前で縛り上げた。
42:25 ヨセフは人々に命じて、兄たちの袋に穀物を詰め、支払った銀をめいめいの袋に返し、道中の食糧を与えるように指示し、そのとおり実行された。創世記 42章1節~25節
メッセージ
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前回学びました41章57節に、「世界各地の飢饉も激しくなったからである」と記されておりましたが、カナン地方にも飢饉は襲っておりました。それで、ヤコブは、エジプトに穀物があると知って、息子たちに、「どうしてお前たちは顔を見合わせてばかりいるのだ」と言い、更に、「聞くところでは、エジプトには穀物があるというではないか。エジプトへ下って行って穀物を買ってきなさい。そうすれば、我々は死なずに生き延びることができるではないか」と言うのです。エジプトに穀物があることは、おそらく兄たちも知っていたのではないかと思います。しかし、彼らにはエジプトへ行くことにある戸惑いがありました。なぜなら、彼らはかつて弟のヨセフをエジプトへ下って行く隊商に売ってしまったからです。それゆえ、兄たちにとってエジプトに行くことは、顔を見合わせるような躊躇してしまうことであったのです。しかし、父ヤコブはそのようなことを知りませんから、息子たちに、エジプトへ下って行って穀物を買ってくるようにと催促するのです。そこで、ヨセフの十人の兄たちは、エジプトから穀物を買うために下って行きました。ヤコブはヨセフの弟ベニヤミンを兄たちに同行させませんでした。何か不幸なことが彼の身に起こるといけないと思ったからであります。ベニヤミンは、ヤコブの最愛の妻ラケルから産まれた息子であります。ヨセフがいなくなった今となっては、ヤコブとラケルとの間に産まれた息子は、ベニヤミンだけであったのです。かつてヤコブはヨセフに裾の長い衣を作ってやり、他の息子の誰よりもかわいがりましたが、そのヤコブの偏った愛情は、その弟であるベニヤミンへと注がれていたのです。それで、ヤコブはヨセフの弟ベニヤミンを兄たちに同行させなかったのです。このようにイスラエルの息子たちは、他の人々に混じって穀物を買いに出かけたのであります。カナン地方にも飢饉が襲っており、カナンに住む人々は、エジプトに穀物を買いに出かけたのです。ところで、ヨセフはエジプトの司政者として、国民に穀物を販売する監督をしておりました。ヨセフの兄たちは来て、地面にひれ伏し、ヨセフを拝しました。もちろん、兄たちは、エジプトの司政者がヨセフであることに気づいてはいません。しかし、ヨセフは一目で兄たちだと気づきました。しかし、そしらぬ振りをして厳しい口調で、「お前たちはどこからやってきたのか」と問いかけるのです。彼らはこう答えました。「食糧を買うために、カナン地方からやって参りました」。兄たちがヨセフだと気がつかなかったのも無理はありません。奴隷として売られたヨセフがエジプトの宰相になっているなど彼らには考えも及ばないことでありました。また、このとき、ヨセフはエジプト人になりきっており、エジプトの言葉を話していたからです。23節に、「ヨセフと兄弟たちとの間に、通訳がいたからである」とありますように、ヨセフはエジプトの宰相として、エジプトの言葉で兄たちに語りかけたのです。話す言葉が違うと同じ人でも別人に見えることがありますが、兄たちの目にはヨセフが別人のように映ったのです。9節に、「ヨセフは、そのとき、かつて兄たちについて見た夢を思い起こした」とあります。この夢とは、37章に記されていた「ヨセフの束が起き上がり、まっすぐに立ち。兄たちの束が周りに集まって来て、ヨセフの束にひれ伏した」という夢であります。兄たちはエジプトの宰相がヨセフであることに気づいておりませんけれども、この夢のとおり、ヨセフをひれ伏し拝したのです。ヨセフは彼らに、「お前たちは回し者だ。この国の手薄な所を探りに来たにちがいない」と言います。「回し者」とは「敵国のスパイ」のことであります。ヨセフは兄たちを知っておりながら、「お前たちは回し者だ」と言いがかりをつけるのです。これに対して、彼らはこう答えました。「いいえ、御主君様。僕どもは食糧を買いに来ただけでございます。わたしどもは皆、ある男の息子で、正直な人間でございます。僕どもは決して回し者などではありません」。ここで兄たちは、自分たちの素性を明らかにすることによって、自分たちが回し者ではないことを説得しようとします。しかも、自分たちは皆、「正直な人間である」とさえ言うのです。さらに、ヨセフが「いや、お前たちはこの国の手薄な所を探りに来たにちがいない」と言うと、彼らはこう答えました。「僕どもは、本当に十二人兄弟で、カナン地方に住むある男の息子たちでございます。末の弟は、今、父のもとにおりますが、もう一人は失いました」。このように兄弟たちは、さらに詳しく自分たちの素性について語るのですが、それを聞いたヨセフはこう言いました。「お前たちは回し者だとわたしが言ったのは、そのことだ。その点について、お前たちを試すことにする。ファラオの命にかけて言う。いちばん末の弟を、ここに来させよ。それまでは、お前たちをここから出すわけにはいかぬ。お前たちのうち、だれか一人を行かせて、弟を連れて来い。それまでは、お前たちを監禁し、お前たちのいうことが本当かどうか試す。もしそのとおりでなかったら、ファラオの命にかけて言う。お前たちは間違いなく回し者だ」。ここでヨセフは兄たちが言ったことが本当かどうかを確かめるために、末の弟を連れてくるようにと言います。ヨセフは弟のベニヤミンに会いたかったのでありましょう。それで、だれか一人を行かせて、弟を連れてくるようにと命じるのです。ヨセフは兄たちであると気づいているにもかかわらず、なぜ、このようなことを言うのでしょうか?ヨセフは、「お前たちの言うことが本当かどうか試す」と言っておりますが、ヨセフは彼らに弟がいることはもちろん知っております。そうであれば、ヨセフは弟のベニヤミンを連れて来させるためにこのように言ったのでしょうか?おそらくそうでありましょう。しかし、ヨセフが「お前たちの言うことが本当かどうか試す」と言うとき、そこにはもう一つの意味が含まれていると思います。それは、彼らが正直な人間であるかどうか、であります。ヨセフは彼らが自分を奴隷としてイシュマエル人に売ったことを知っております。また、読者である私たちは、彼らがヨセフの裾の長い衣を引き裂き、雄山羊の血にそれを浸して、あたかも野獣にかみ殺されたかのように父ヤコブを欺いたことを知っております。ですから、彼らは正直な者とは到底言うことはできないのです。しかし、ヨセフが試したいことは、その彼らが正直な者へと変わったのかということであります。兄たちは、自分たちの前に立つエジプトの宰相がヨセフであることに気づかずに、ぬけぬけと「わたしどもは皆、・・・・・・正直な人間でございます」と語りました。そのことをヨセフは試すことにすると言うのです。
ヨセフは、彼らを三日間牢獄に監禁するのですが、三日目になって、ヨセフは彼らにこう言いました。「こうすれば、お前たちの命を助けてやろう。わたしは神を畏れる者だ。お前たちが本当に正直な人間だというのなら、兄弟のうち一人だけを牢獄に監禁するから、ほかの者は皆、飢えているお前たちの家族のために穀物を持って帰り、末の弟をここへ連れて来い。そうして、お前たちの言い分が確かめられたら、殺されはしない」。牢獄に監禁する前、ヨセフは「だれか一人を行かせて、弟を連れて来い」と言いました。しかし、監禁して三日目には、「兄弟のうちだれか一人だけを牢獄に監禁するから、ほかの者は皆、飢えているお前たちの家族のために穀物を持って帰り、末の弟を連れて来い」と言うのです。ここでは条件がだいぶ緩やかになっています。そして、それは「飢えているお前たちの家族のために穀物を持って帰る」ためであるのです。ヨセフはこのように、カナン地方の飢えている家族を配慮するのです。このヨセフの言葉に、彼らは同意して、互いにこう言いました。「ああ、我々は弟のことで罰を受けているのだ。弟が我々に助けを求めたとき、あれほどの苦しみを見ながら、耳を貸そうともしなかった。それで、この苦しみが我々にふりかかった」。ここでの「弟」は言うまでもなくヨセフのことであります。なぜ、彼らは弟のヨセフのことを互いに口にしたのでしょうか?それは、自分たちがエジプトの牢獄に監禁され、奴隷とされてしまうかも知れないと思ったからです。また、兄弟の一人を欠いて、父のところへ戻らねばならないという状況がヨセフのことを思い起こさせたのです。彼らは、自分たちで言っているように、食糧を買いに来ただけなのです。それが、回し者と疑われ、牢獄に監禁されてしまったのです。彼らは殺されてしまうかも知れない危機的状況に置かれていたのです。その苦難の理由を彼らは、「我々は弟のことで罰を受けているのだ」と言ったのです。ここにあるのは、単なる後悔の言葉ではありません。ここにあるのは自分たちの罪を認める懺悔の言葉です。「ああ、われわれは弟のことで罰を受けているのだ」という兄たちの言葉には、自分たちが弟にしたことは、神さまに対する罪であったことが言い表されているのです。兄たちから裾の長い衣をはぎ取られ、水溜に落とされたとき、ヨセフは兄たちに助けを求めました。しかし、彼らはヨセフの苦しみを見ながら耳を貸そうともしなかったのです。それで、この苦しみが我々にふりかかったと言うのです。彼らは自分たちの苦しみを通して、ヨセフの苦しみに思いを向け、さらに、自分たちがしたことを罰に値する罪として言い表したのであります。これを聞いて、ルベンはこう言いました。「あのときわたしは、『あの子に悪いことをするな』と言ったではないか。お前たちは耳を貸そうともしなかった。だから、あの子の血の報いを受けるのだ」。ここでルベンは、いささか過去の自分を美化しております。ルベンが言ったのは、「血を流してはならない。荒れ野のこの穴に投げ入れよう。手を下してはならない」ということでありました。ルベンはヨセフを殺すことには反対しましたが、荒れ野の穴に投げ込むことを提案した張本人であったのです。しかも、ルベンがそのように言ったのは、長男である自分が父に対してヨセフについての責任を負っていたからであったのです(4:9、37:30参照)。このように、ルベンでさえ、正直な人間であったと言うことはできないのです。ルベンは、「だから、あの子の血の報いを受けるのだ」と言っておりますが、これは神さまがノアとの契約において言われたことに基づいています。神さまは、9章5節で、「あなたたちの命である血が流された場合、わたしは賠償を要求する。いかなる獣からも要求する。人間どうしの血については、人間から人間の命を賠償として要求する」と言われました。そのように神さまが、ヨセフの血の報いを我々に求めておられると、ルベンは言うのです。
彼らはヨセフが聞いているのを知りませんでした。と言うのも、ヨセフと彼らの間には通訳がいたからです。ヨセフは彼らから遠ざかって泣きました。それは、兄たちがかつて自分にしたことを罪として明白に認めたのを聞いたからだと思います。ヨセフは戻って来て、話をしたうえでシメオンを選び出し、彼らの見ている前で縛り上げました。なぜ、シメオンが選び出されたのでしょうか?それはシメオンがルベンの次の年長者であったからです。本来ならば、長男であるルベンが選び出されるのでしょうが、ヨセフはルベンが自分を守ろうとしたことを知って、次の年長者であるシメオンを選び出したのです。そして、ヨセフは人々に命じて、兄たちの袋に穀物を詰め、支払った銀をめいめいの袋に返し、道中の食糧を与えるよう指示し、そのとおり実行されました。私たちは、ここにもヨセフの配慮を見ることができるのです。