ヤコブの脱走 2013年6月23日(日曜 夕方の礼拝)
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ヤコブの脱走
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- 村田寿和 牧師
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創世記 31章1節~21節
聖書の言葉
31:1 ヤコブは、ラバンの息子たちが、「ヤコブは我々の父のものを全部奪ってしまった。父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ」と言っているのを耳にした。
31:2 また、ラバンの態度を見ると、確かに以前とは変わっていた。
31:3 主はヤコブに言われた。「あなたは、あなたの故郷である先祖の土地に帰りなさい。わたしはあなたと共にいる。」
31:4 ヤコブは人をやって、ラケルとレアを家畜の群れがいる野原に呼び寄せて、
31:5 言った。「最近、気づいたのだが、あなたたちのお父さんは、わたしに対して以前とは態度が変わった。しかし、わたしの父の神は、ずっとわたしと共にいてくださった。
31:6 あなたたちも知っているように、わたしは全力を尽くしてあなたたちのお父さんのもとで働いてきたのに、
31:7 わたしをだまして、わたしの報酬を十回も変えた。しかし、神はわたしに害を加えることをお許しにならなかった。
31:8 お父さんが、『ぶちのものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみなぶちのものを産むし、『縞のものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみな縞のものを産んだ。
31:9 神はあなたたちのお父さんの家畜を取り上げて、わたしにお与えになったのだ。
31:10 群れの発情期のころのことだが、夢の中でわたしが目を上げて見ると、雌山羊の群れとつがっている雄山羊は縞とぶちとまだらのものばかりだった。
31:11 そのとき、夢の中で神の御使いが、『ヤコブよ』と言われたので、『はい』と答えると、
31:12 こう言われた。『目を上げて見なさい。雌山羊の群れとつがっている雄山羊はみな、縞とぶちとまだらのものだけだ。ラバンのあなたに対する仕打ちは、すべてわたしには分かっている。
31:13 わたしはベテルの神である。かつてあなたは、そこに記念碑を立てて油を注ぎ、わたしに誓願を立てたではないか。さあ、今すぐこの土地を出て、あなたの故郷に帰りなさい。』」
31:14 ラケルとレアはヤコブに答えた。「父の家に、わたしたちへの嗣業の割り当て分がまだあるでしょうか。
31:15 わたしたちはもう、父にとって他人と同じではありませんか。父はわたしたちを売って、しかもそのお金を使い果たしてしまったのです。
31:16 神様が父から取り上げられた財産は、確かに全部わたしたちと子供たちのものです。ですから、どうか今すぐ、神様があなたに告げられたとおりになさってください。」
31:17 ヤコブは直ちに、子供たちと妻たちをらくだに乗せ、
31:18 パダン・アラムで得たすべての財産である家畜を駆り立てて、父イサクのいるカナン地方へ向かって出発した。
31:19 そのとき、ラバンは羊の毛を刈りに出かけていたので、ラケルは父の家の守り神の像を盗んだ。
31:20 ヤコブもアラム人ラバンを欺いて、自分が逃げ去ることを悟られないようにした。
31:21 ヤコブはこうして、すべての財産を持って逃げ出し、川を渡りギレアドの山地へ向かった。創世記 31章1節~21節
メッセージ
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縞やぶちやまだらの丈夫な家畜がたくさん生まれることによって、ヤコブはますます豊かになり、多くの家畜や男女の奴隷、それにらくだやろばなどを持つようになったのでありますが、そのことを不愉快に思う者たちがおりました。それがラバンの息子たちであります。ラバンの息子たちについては、30章35節にも記されておりましたが、ヤコブがレアとラケルと結婚した後で生まれたとすれば、20歳ぐらいであったと思われます。そのラバンの息子たちが、「ヤコブは我々の父のものを全部奪ってしまった。父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ」と言っていたのです。前回学んだことでありますが、多くの羊は白毛であり、多くの山羊は黒毛でありました。しかし、ヤコブは、ぶちやまだらや黒みがかった羊とまだらとぶちの山羊を報酬として求めたのでありました。そのような条件ならば、もう一度ラバンの家畜の世話をしてもよいとヤコブは言ったのです。群れの中に、ぶちやまだらや黒みがかかった羊、またまだらとぶちの山羊はそれほどおりませんから、ラバンは、「よろしい。お前の言うとおりにしよう」と言ったわけですが、ヤコブの工夫もあって、それからはぶちやまだらや黒みがかった羊と、まだらとぶちの山羊ばかりが産まれるようになりました。しかも、弱いのはラバンのものとなり、丈夫なのはヤコブのものとなったのでありますから、全体として家畜は増えても、ヤコブの報酬であるぶちやまだらの家畜ばかりが増えるばかりであったのです。それゆえ、ラバンの息子たちは、「ヤコブは我々の父のものを全部奪ってしまった。父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ」と言っていたのであります。また、ラバンの態度を見ると、確かに以前とは変わっておりました。これもよく分かることであります。ラバンは30章27節で、「実は占いで、わたしはお前のお陰で、主から祝福をいただいていることが分かったのだ」と言っておりましたが、主の祝福は今や、ヤコブにのみ注がれているからです。家畜全体が増えても、しまやぶちのものばかり産むことによって、ラバンの取り分は増えなかったからです。おそらく、ラバンはヤコブに敵意を抱くようになっていたのだと思います。このように、ヤコブが裕福になることによって、ラバンの息子たちとの関係、さらには、ラバンとの関係が難しいものとなっていたのです。そのようなとき、主はヤコブにこう言われました。「あなたは、あなたの故郷である先祖の土地に帰りなさい。わたしはあなたと共にいる」。30章25節で、ヤコブは自分の思いから「わたしを独り立ちさせて、生まれ故郷へ帰らせてください」とラバンに願い出ましたけれども、ここでは、主がヤコブに、「あなたは、あなたの故郷である先祖の土地に帰りなさい」と言われるのです。そして、ここでも主は「わたしはあなたと共にいる」と言ってくださるのです。
それで、ヤコブは人をやって、ラケルとレアを家畜の群れがいる野原に呼び寄せました。ヤコブがラケルとレアを野原に呼び寄せたのは、ヤコブが家畜の群れのもとを離れることができなかったか、あるいは、誰にも話している内容を聞かれないためであったと思われます。ともかく、ヤコブは二人の妻が自分と一緒に遠いカナンの土地へ来るかを確認しようとするのです。ヤコブは二人の妻にこういいました。「最近、気づいたのだが、あなたたちのお父さんは、わたしに対して以前とは態度が変わった。しかし、わたしの父の神は、ずっとわたしと共にいてくださった。あなたたちも知っているように、わたしは全力を尽くしてあなたたちのお父さんのもとで働いてきたのに、わたしをだまして、わたしの報酬を十回も変えた。しかし、神はわたしに害を加えることをお許しにならなかった。お父さんが、『ぶちのものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみなぶちのものを産むし、『縞のものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみな縞のものを産んだ。神はあなたたちのお父さんの家畜を取り上げて、わたしにお与えになったのだ」。
ヤコブは、先ず、レアとラケルの父であるラバンの態度が以前とは変わったことを告げます。ヤコブに対するラバンの態度は以前とは変わったのでありますが、しかし、ヤコブの父の神は変わることはありませんでした。主なる神は、ヤコブとずっと共にいてくださったのです。ヤコブがラバンのために全力で働いたことは、生活を共にしている妻たちがよく知っていることでありました。しかし、ラバンはヤコブをだまして、報酬を十回も変えたというのです。「十回も変えた」とありますが、これは文字通り十回ということではなくて、「幾度も」という意味であります(新改訳聖書参照)。ラバンは報酬の条件を変えることによって、ヤコブの報酬を減らそうとしたわけです。しかし、神様はそのことをお許しにならず、ヤコブに報酬として与えられる条件の家畜を産ませられるわけです。そのようにして、神様がラバンの家畜を取り上げて、わたしにお与えになったのだ、とヤコブは言うのです。ラバンの息子たちは、「ヤコブは我々の父のものを全部奪ってしまった」と中傷しましたが、ヤコブに言わせれば、神様がラバンの家畜を取り上げて、ヤコブにお与えになったのです。
さらに、ヤコブは言います。「群れの発情期のころのことだが、夢の中でわたしが目を上げて見ると、雌山羊の群れとつがっている雄山羊は縞とぶちとまだらのものばかりだった。そのとき、夢の中で神の御使いが、『ヤコブよ』と言われたので、『はい』と答えると、こう言われた。『目を上げて見なさい。雌山羊の群れとつがっている雄山羊はみな、縞とぶちとまだらのものだけだ。ラバンのあなたに対する仕打ちは、すべてわたしには分かっている。わたしはベテルの神である。かつてあなたは、そこに記念碑を立てて油を注ぎ、わたしに誓願を立てたではないか。さあ、今すぐこの土地を出て、あなたの故郷に帰りなさい。』」
「雌山羊の群れとつがっている雄山羊は縞とぶちとまだらのものばかりであった」という夢は、ヤコブの工夫を越えて、主なる神が縞やぶちやまだらの家畜を産まれるようにしておられることを示しております。そのようにして主は、これまでラバンに仕えて来たヤコブに報いてくださったのです。ラバンのヤコブに対する仕打ちを見ておられる主が、縞とぶちとまだらの家畜を産まれさせることによって、ヤコブに報いてくださるのです。ここで主は、「わたしはベテルの神である」と名のられます。そして、かつてヤコブが記念碑を立てて油を注いでした誓願を思い起こさせるのです。このことは28章に記されておりますが、その夢の中で、主はヤコブに現れてこう言われたのです。「見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない」。この主の御言葉を受けて、ヤコブは枕にしていた石を記念碑として油を注ぎ、次のような誓願を立てたのです。「神がわたしと共におられ、わたしが歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え、無事に父の家に帰らせてくださり、主がわたしの神となられるなら、わたしが記念碑として立てたこの石を神の家とし、すべて、十分の一をささげます」。主はこの誓願を思い起こさせ、ヤコブに、「さあ、今すぐこの土地を出て、あなたの故郷に帰りなさい」と言われるのです。このようにして、主はヤコブに故郷に帰る時を示されたのです。
このヤコブの話しを聞いて、ラケルとレアはこう答えました。「父の家に、わたしたちへの嗣業の割り当て分がまだあるでしょうか。わたしたちはもう、父にとって他人と同じではありませんか。父はわたしたちを売って、しかもそのお金を使い果たしてしまったのです。神様が父から取り上げられた財産は、確かに全部わたしたちと子供たちのものです。ですから、どうか今すぐ、神様があなたに告げられたとおりにしてください」。当時は三代、四代にわたる大家族であり、ラケルとレアはヤコブに嫁いだとは言え、ラバンの娘であることに変わりはありませんでした。ですから、父ラバンとの関係を重んじて、ヤコブと共に行かないということもあり得たのです。しかし、ラケルとレアは、父の家との関係がすでに断たれていること、また、父にとって自分たちは他人と同然であると言うのです。ヤコブは結納金として14年間二人の妻のために働いたわけですが、ラバンはその結納金の一部を花嫁のために取っておかずに、自分だけのために使ってしまったようです。それゆえ、ラケルとレアは「父はわたしたちを売って、しかもそのお金を使い果たしてしまった」と非難しているのです。このようにラケルとレアは、父ラバンとの関係よりも夫ヤコブとの関係を重んじるのです(創世2:24参照)。ラケルとレアは、ラバンの息子たちとは違って、「神様が父から取り上げられた財産は、確かに全部わたしたちと子供たちのものです」と語るのです。また、「どうか今すぐ、神様があなたに告げられたとおりになさってください」とヤコブの決断を後押しするのです。
主なる神様からの御言葉と、妻たちの言葉によって、ヤコブは直ちに、子供たちと妻たちをらくだに乗せ、パダン・アラムで得たすべての財産である家畜を駆り立てて、父イサクのいるカナン地方へ向かって出発したのでありました。また、ラケルは、父ラバンが羊の毛を刈りに出かけている留守中に、父の家の守り神の像を盗みました。当時は、家の守り神の像を持つ者が、財産を受け継ぐとされておりましたので、ラケルは父の家の守り神の像を盗んだのかも知れません。あるいは、結納金の一部をもらうことのできなかった腹いせに盗んだのかも知れません。よく分かりませんが、このことは後でラバンから追求されることになります。また、ヤコブもラバンの心を盗んで、自分が逃げ去ることを悟らせないようにしました。こうしてヤコブは、すべての財産を持って逃げ出し、ユーフラテス川を渡り、ヨルダン川東岸に位置するギレアドの山地へ向かうことができたのです。
今夕の御言葉を振り返って改め思いますことは、主なる神様が、ヤコブに故郷に帰るときをお示しになり、ヤコブは信仰をもって、その主の御言葉に従ったということであります。そして、それはヤコブに取りまして、兄エサウとの和解のときをも意味しております。かつてヤコブは父イサクをだまし、兄エサウが受けることになっていた祝福を奪いました。そのようなヤコブを兄エサウは、「殺してやる」と息巻いていたわけです。そのことを耳にした母リベカが、ヤコブを呼び寄せてこう言ったわけであります。「大変です。エサウ兄さんがお前を殺して恨みを晴らそうとしています。わたしの子よ。今、わたしの言うことをよく聞き、急いでハランに、わたしの兄ラバンの所へ逃げて行きなさい。そして、お兄さんの怒りが治まるまで、しばらく伯父さんの所に置いてもらいなさい。そのうちに、お兄さんの憤りも治まり、お前のしたことを忘れてくれるだろうから、そのときには人をやってお前を呼び戻します。一日のうちにお前たち二人を失うことなど、どうしてできましょう」。
このように、母リベカは言っていたのでありますが、ヤコブのもとに人が使わされるということはありませんでした。なぜなら、母リベカはそれからしばらくして死んでしまうからです。しかし、主がヤコブに故郷に帰るときを示されるのであります。コヘレトの言葉3章1節に、「何事にも時があり/天の下の出来事にはすべて定められた時がある」とありますように、主はヤコブが故郷に帰る時を示されたのであります。そして、ヤコブはそのことを信じて、父イサクのいるカナンへと出発したのです。