2025年05月08日「人生を振り返る（ライフ・レヴュー）」

　教会学校の成人科では、5月から「死を覚え、よく生きる」という話を始めました。何回か続きます。その話と関係しますが、今日は、主の祈りの学びを中断し、人生を振り返ることの大切さを心に留めたいと思います。

　様々な困難のあった初代教会の信徒を励ますために、ヨハネは、神が私たちに 3:1「どんなに素晴らしい愛を与えて下さったかを『考えなさい』」と教えます。教会の礼拝や色々な機会に学んだ神の愛を振り返って考えるということです。またもう少し広げて、色々な折りに色々な形で神の愛を頂いてきた自分の人生を振り返ることも含めて良いでしょう。

　その振り返りをする時、イエス・キリストを信じる以外、何もできない私たち罪人ですが、十字架の死と復活を中心とする御子イエスの贖いの御業（みわざ）を通して、私たち信仰者を義とし、ご自分の子供にして下さった神の素晴らしい愛を、私たちは覚えないではおられません。自分の人生を振り返る！これは何と大切でしょうか。

　かつて私は淀川キリスト教病院でチャプレンとして働き、多くの方と出会い、また人生の大切な最後をお世話させて頂いた方も少なくありません。

　地上の生涯の最後は、やはりそれなりに厳しいものです。身体的苦痛に加え、精神的、社会的、霊的にも痛みがあり、大きな危機と言えます。しかし、色々な方に関らせて頂いて思いましたのは、厳しい状況ではありながらも、創り主なる真（まこと）の神と周りの人たちに、またご自分の歩んで来られた人生に少しでも感謝できる人の最後は、どこか爽やかで、この方は本当に魂の救いに与られ、天国へ行かれた、ということです。

　辛さの中でも、なお感謝を少しでも覚えられることは、本当に幸せだと思います。そういう方には、厳しさの中にあっても、ふとした時に落ち着きや微笑みさえ見られます。ご自分への御子イエスの十字架の死と復活を通しての神の確かな救いの愛を覚えられるからでしょう。

　そして、神に、また周囲の人にも自分の人生にも感謝できるというこの大切なことが起る上で重要なものの一つが、繰り返しますが、自分の人生を振り返ることです。英語では、よくライフ・レビューと言われます。ライフ・レビューの大切さは、ホスピスケアなどに携わる医療者にはよく知られていますが、私もこれは色々な方に関らせて頂いて、本当にそうだと実感しています。

　それだけでなく、私自身がそれまでの自分の人生を振り返ることを通しても、これがどんなに大切で、素晴らしいことであるかを、確信をもって言えます。

　私は14年間、ほぼ毎週、月～木曜の午後1時から30分間、全病室と全館に向けて「お昼の伝道放送」と呼ばれる時間を担当し、聖書の話をしました。そのイントロ、導入部分で、私は時々自分の子供時代を振り返って話をしました。最初は特に考えもなく始めたのですが、少年時代を初め、それまでの人生を振り返って気付かされたことは、自分が多くの人の支えや励まし、また赦しを頂き、無論、時には厳しい言葉も頂き、イヤなことも少なからずありましたが、何と幸せだろうとつくづく思ったものでした。

　例えば、私の両親は25年前に一か月の間に続けて亡くなりました。その彼らに私は、改めて言うほど愛されていたという気持はなく、普通だと思っていました。しかしお昼の放送で、父や母とのことを振り返るにつれて、「あぁ、僕は彼らに本当はこんなにも愛されていたのだ」と気付かされ、放送中ですのに涙が出る時もありました。

　神学校を卒業し、牧師になってから、私はもうすぐ50年になり、苦しいことも沢山ありました。けれども、静かに振り返りますと、如何に多くの方に親切にして頂き、どんなに多くの失敗を赦して頂き、恵まれてきたかを思わずにはおれません。そしてその背後に、父なる神と御子イエス・キリスト、また御霊の大きな愛と憐れみ、助けのあったことを、しかも私がこの世に生れる前から私を愛し、導いて下さっていたことを思わないではおられません。

　恐らく自分の人生を振り返らなかったならば、恵まれていたことにも余り気付かなかったと思います。振り返ることで本当に励まされます。

　死を覚えること、それと共に、ライフ・レビュー、すなわち自分の人生を静かにゆっくり振り返ることは、何と尊いことでしょうか。これは人生の終りの時にだけするのではなく、普段でも、私たちが何故か気持がひどく疲れ、塞ぎこみ、後ろ向きになっているような時にも行うと良い神からの素晴らしい知恵だと思います。

　聖書の御言葉（みことば）に深く耳を傾けることと共に、時々立ち止っては、自分の人生を静かに振り返ることにより、神からの平安、慰め、愛に気付かされる幸いに与ることを、是非、ご一緒に許されたいと思います。