2024年07月25日「試練 8 自分の身に置き換えて 積極面」

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試練 8 自分の身に置き換えて 積極面

日付
説教
田村英典 牧師
聖書
マタイによる福音書 7章12節

聖句のアイコン聖書の言葉

7:12 人からしてもらいたいことは何でも、あなた方も同じように人にしなさい。マタイによる福音書 7章12節

原稿のアイコンメッセージ

 試練に苦しむ人を支える上で大切なマタイ福音書7:12の主イエスの御言葉、「人からしてもらいたいことは何でも、あなた方も同じように人にしなさい」を、今日も心に留めたいと思います。

 前回も言いましたが、7:12は昔から黄金律と呼ばれ、孔子の「汝の欲せざるところ、人にも施すなかれ」や旧約聖書外典のトビト書4:15「自分がいやなことは、他の誰にもしてはならない」と似ています。しかし、それらは「~~するな」と消極的ですが、イエスの教えは「人からしてもらいたいことは何でも、あなた方も同じように人にしなさい」と積極的です。今日は、自分の身に置き換えて、希望することや言ってほしい積極的な点を考えたいと思います。

 心に留めたい第一のことは優しさです。

 これを私はかつて淀川キリスト教病院でチャプレンとして働いていた時、多くの患者さんに接して、とても強く感じました。人は辛い時、優しくされると絶対に嬉しいものです。医療者から厳しいことを言われ、へこんで落ち込み、或いは怒って食ってかかる人もいました。逆に優しくしてくれる人には、素直になる患者さんが多かったことを思い出します。

 このことには人間の自己中心的な罪も絡んでいて、全面的にこれを良しとするわけにはいきません。ただ、現実は確かにこの通りです。しかも優しくしてくれた人の言葉は、耳に入ります。自分の身に置き換えると、分ると思います。ですから、単にテクニックではなく、私たちは主の愛をもってまず優しくあれたらと思います。

 第二に、試練の中で身体的にも精神的にも非常に辛い時、人は自分をそのまま受け入れてほしいものです。これは先程の優しさを願うことの一面ですが、とにかく、辛くてどうにもできない自分をそのまま受け入れてほしいものです。

 ある時、精神状態の不安定な女子大生が、クリスチャンであるお祖母さんに言われて、受診後に、私を尋ねて来ました。色々沢山自分のことを話され、私は傾聴に努め、神の愛を伝える御言葉を読み、静かに祈りました。彼女はよほど嬉しかったのか、別れ際に、ハグしてほしいと言いました。若いお嬢さんですので、私は躊躇し、ハグではなく、心を込めて握手をし、別れました。

 あとで考えました。彼女は自分をそのまま受け入れてほしく、それをハグという形で希望したのです。ですから、やはりハグして上げれば良かったなと思いましたが、もう遅かった。とにかく、辛さにあっぷあっぷしている人は、まずそのまま受容して上げることだと思います。

 第三は、相手の言葉をしっかり聞き取り、相手の言葉を、共感をもってそのまま相手に返すことです。「ここがすごく辛いのです」と言われたなら、「あぁ、そこがとても辛いのですねぇ」と返し、「このことが心配でたまりません」と言われたなら、「そのことが心配でたまらないのですねぇ」というように、相手の言葉をよく聞いていること、また共感していることを、相手の言葉をそのまま反復することで相手に伝えることを大事にしたいと思います。距離が自然と縮まると思います。

 第四は共にいて上げることです。

 何度も申しましたが、重い病であれ障害であれ何か非常に困難な問題であれ、困難の中にある者は、人一倍孤独に感じます。まるで自分一人が苦しみ悩まなければならないように感じ、それが一層不安を煽り(あおり)、孤独感の中でパニックに陥り、自分を失いかねません。

 しかしそんな時、誰かが共にいて、すぐ解決はできなくても、一緒に考え、一緒に悩み、一緒に問題を受け止めてくれたなら、どんなに嬉しいでしょうか。物理的にずっと共にいることは無理でも、手紙やメール、電話、祈りにおいて、人が自分に寄り添ってくれているのが分る時、私たちはどんなに励まされるでしょう。

 第五は希望を支えることです。苦しい時程、人は希望をくれる言葉がほしいものです。

 元シカゴ大学医学部教授E.キュブラーロスは多くの癌患者にインタビューし、1969年に『死の瞬間』という本を書きました。その中で、「患者の全ては一縷(いちる)の望みを抱き続け、特に辛い時期は、それによって支えられている。現実的な希望であろうなかろうと、そのような希望を持たせてくれる医師に対し最大の信頼を置く。…そうかといって、医師が患者に嘘をつかねばならないということではない。それはただ私たちが患者と希望を分かち合うという意味である。何か思いがけない良い事態が起るかも知れない、病気の軽快があるかも知れない、寿命が案外伸びるかも知れない、そういった希望を患者と共に分かち合うということである」と書いています。ですから、少々無理な希望を患者が述べても、「そうなるといいですね」と言って、苦しみの中にある人の希望を支えることです。心に留めたいと思います。

 イエスは言われます。マタイ7:12「人からしてもらいたいことは何でも、あなた方も同じように人にしなさい。」

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