聖書の言葉 20:13 殺してはならない。出エジプト記 20章13節 メッセージ どの戒めもそうですが、意味を掘り下げ、現実の色々なことに当てはめますと、関連する事柄の広さや深さ、複雑さに、迷うこともあります。今日は少し違う角度から第六戒を学びます。 ウェストミンスター小教理問答の問68､69が言いますように、第六戒は、私たち自身と他人の命を守るための全ての正当な努力を求め、また私たち自身の命を奪うことと他人の命を不当に奪うことやその恐れのあることを全て禁じます。 しかし、現実には判断の難しい場合もあります。ウェストミンスター大教理問答の問136は、「社会正義・合法的戦争、やむを得ない防衛」を挙げ、死刑や戦争など、人を殺して良い場合を原理的に認めています。 では第一に死刑はどうでしょう。旧約聖書では、死刑の多くの例が見られます。新約聖書でも、例えば、パウロは使徒25:11で「もし私が悪いことをし、死に値する何かをしたのなら、私は死を免れようとは思いません」と語り、死刑を認めていると言えるでしょう。 しかし、原理的には認められても、実際の判断は私たち罪人（つみびと）がするため、常に問題を孕んでいます。歴史を降り返りますと、冤罪で、一体どんなに多くの無実の人が殺さてきたことでしょう。 殺人の真犯人が捕まったとします。私たちは当然、被害者やその家族の心情を十分に考える必要があります。ただ一方で犯人の、例えば、幼い頃からの余りにも不遇な生い立ちや、ずっと置かれていた理不尽で過酷な環境などを考えますと、事は簡単ではありません。 いずれにせよ、私たちは、主イエスの御言葉を深く心に留めて判断したいと思います。ある時、姦淫の現場で捕えられた女について、ヨハネ8:5「モーセは律法の中で、こういう女を石打ちにするよう私たちに命じています。あなたは何と言われますか」と、律法学者たちはイエスに迫りました。イエスはお答えになりました。同8:7「あなた方の中で罪のない者が、まずこの人に石を投げなさい。」すると年長の者から彼らは一人一人去って行きました。 第二に戦争はどうでしょうか。自分はどうすれば良いかと尋ねる兵士たちに、洗礼者ヨハネはルカ3:14「誰からも、金を力ずくで奪ったり脅し取ったりしてはいけません。自分の給料で満足しなさい」と答え、兵士を辞めよ、とは言っていません。福音書と使徒の働きには、ローマ軍の敬虔な百人隊長たちが登場し、軍人という職業も認められています。 原理的には、合法的でやむを得ない防衛のための戦争は、良いと考えられます。しかし、どこまで本当に合法的で防衛のためのものなのかは、時の政治的、経済的、社会的、そして国際的な色々な思惑も絡んでいることが多く、判断はとても難しいです。 それと戦争は、一旦始まってしまいますと、理性は失われ、報復の心理が働いて相手への憎悪と残虐性がどんどんエスカレートし、歯止めが効かなくなり、戦争犯罪が生れます。兵士が消耗品と見做される非人間的な面も必ず出ます。 ですから、聖書から見て、原理的には死刑も戦争も認められますが、判断するのは私たち罪人ですから、実際には、慎重過ぎる位、抑制することが大切です。御霊の導きを願って祈らないではおれません。 第三に自死・自殺はどうでしょう。聖書にその例は多くありませんが、例えば、Ⅰサムエル31章は、サウルがペリシテ軍との戦いに敗れ、なぶりものにされて殺されることを恐れて、自分を剣で刺し殺せと部下に命じたことを伝えています。部下は怖くてそれが出来なかったため、サウルは自ら剣の上に倒れ伏して死に、それを見た部下もサウルを追って自殺しました。 ウェストミンスター小教理問答や同大教理問答の記述からも分りますように、昔からキリスト教会は自殺・自死を基本的には第六戒に抵触する罪としてきました。神が授けられた尊い命を、人間が自分で破壊する行為だからです。私たちは決して自分の命を軽々しく扱ったり、粗末にしてはなりません。命の真（しん）の所有者は神であられ、私たちではないのです。世にいる間、私たちは命を神から貸して頂いているのであり、自由にできる権利は私たちにありません。従って、単に自暴自棄からとか短絡的な思いで自分を死に追いやるなら、これは大きな罪です。 しかし、自死・自殺にも様々な事情とケースがあり、一様にこれを罪とすることはできないと思います。特に心の病のために自死に至る場合、当人は通常の理性的思考力や判断能力を失っています。ですから、死に至ったことだけを取り上げて罪かどうかを第三者が機械的に論じることは、出来ません。 「殺してならない。」第六戒の背後に、ご自身に似せて造られた私たちを真（しん）に愛しておられる父なる神、御子イエス、聖霊という三位一体の神の計り知れない愛のあることを決して忘れず、原理と実際の両面から考え、神の御心に適った判断をすることが出来るようにと、切に願わずにはおられません。 関連する説教を探す 2023年の祈祷会 『出エジプト記』
聖書の言葉
メッセージ
関連する説教を探す
どの戒めもそうですが、意味を掘り下げ、現実の色々なことに当てはめますと、関連する事柄の広さや深さ、複雑さに、迷うこともあります。今日は少し違う角度から第六戒を学びます。
ウェストミンスター小教理問答の問68､69が言いますように、第六戒は、私たち自身と他人の命を守るための全ての正当な努力を求め、また私たち自身の命を奪うことと他人の命を不当に奪うことやその恐れのあることを全て禁じます。
しかし、現実には判断の難しい場合もあります。ウェストミンスター大教理問答の問136は、「社会正義・合法的戦争、やむを得ない防衛」を挙げ、死刑や戦争など、人を殺して良い場合を原理的に認めています。
では第一に死刑はどうでしょう。旧約聖書では、死刑の多くの例が見られます。新約聖書でも、例えば、パウロは使徒25:11で「もし私が悪いことをし、死に値する何かをしたのなら、私は死を免れようとは思いません」と語り、死刑を認めていると言えるでしょう。
しかし、原理的には認められても、実際の判断は私たち罪人（つみびと）がするため、常に問題を孕んでいます。歴史を降り返りますと、冤罪で、一体どんなに多くの無実の人が殺さてきたことでしょう。
殺人の真犯人が捕まったとします。私たちは当然、被害者やその家族の心情を十分に考える必要があります。ただ一方で犯人の、例えば、幼い頃からの余りにも不遇な生い立ちや、ずっと置かれていた理不尽で過酷な環境などを考えますと、事は簡単ではありません。
いずれにせよ、私たちは、主イエスの御言葉を深く心に留めて判断したいと思います。ある時、姦淫の現場で捕えられた女について、ヨハネ8:5「モーセは律法の中で、こういう女を石打ちにするよう私たちに命じています。あなたは何と言われますか」と、律法学者たちはイエスに迫りました。イエスはお答えになりました。同8:7「あなた方の中で罪のない者が、まずこの人に石を投げなさい。」すると年長の者から彼らは一人一人去って行きました。
第二に戦争はどうでしょうか。自分はどうすれば良いかと尋ねる兵士たちに、洗礼者ヨハネはルカ3:14「誰からも、金を力ずくで奪ったり脅し取ったりしてはいけません。自分の給料で満足しなさい」と答え、兵士を辞めよ、とは言っていません。福音書と使徒の働きには、ローマ軍の敬虔な百人隊長たちが登場し、軍人という職業も認められています。
原理的には、合法的でやむを得ない防衛のための戦争は、良いと考えられます。しかし、どこまで本当に合法的で防衛のためのものなのかは、時の政治的、経済的、社会的、そして国際的な色々な思惑も絡んでいることが多く、判断はとても難しいです。
それと戦争は、一旦始まってしまいますと、理性は失われ、報復の心理が働いて相手への憎悪と残虐性がどんどんエスカレートし、歯止めが効かなくなり、戦争犯罪が生れます。兵士が消耗品と見做される非人間的な面も必ず出ます。
ですから、聖書から見て、原理的には死刑も戦争も認められますが、判断するのは私たち罪人ですから、実際には、慎重過ぎる位、抑制することが大切です。御霊の導きを願って祈らないではおれません。
第三に自死・自殺はどうでしょう。聖書にその例は多くありませんが、例えば、Ⅰサムエル31章は、サウルがペリシテ軍との戦いに敗れ、なぶりものにされて殺されることを恐れて、自分を剣で刺し殺せと部下に命じたことを伝えています。部下は怖くてそれが出来なかったため、サウルは自ら剣の上に倒れ伏して死に、それを見た部下もサウルを追って自殺しました。
ウェストミンスター小教理問答や同大教理問答の記述からも分りますように、昔からキリスト教会は自殺・自死を基本的には第六戒に抵触する罪としてきました。神が授けられた尊い命を、人間が自分で破壊する行為だからです。私たちは決して自分の命を軽々しく扱ったり、粗末にしてはなりません。命の真（しん）の所有者は神であられ、私たちではないのです。世にいる間、私たちは命を神から貸して頂いているのであり、自由にできる権利は私たちにありません。従って、単に自暴自棄からとか短絡的な思いで自分を死に追いやるなら、これは大きな罪です。
しかし、自死・自殺にも様々な事情とケースがあり、一様にこれを罪とすることはできないと思います。特に心の病のために自死に至る場合、当人は通常の理性的思考力や判断能力を失っています。ですから、死に至ったことだけを取り上げて罪かどうかを第三者が機械的に論じることは、出来ません。
「殺してならない。」第六戒の背後に、ご自身に似せて造られた私たちを真（しん）に愛しておられる父なる神、御子イエス、聖霊という三位一体の神の計り知れない愛のあることを決して忘れず、原理と実際の両面から考え、神の御心に適った判断をすることが出来るようにと、切に願わずにはおられません。