2022年03月13日「罪を赦す権威を持つイエス」

　9:2以降が伝えることは、マルコ2:1以降とルカ5:17以降も伝えています。それらも参考にしながら、私たちに語りかけられる神の御声を今日も聞きたいと思います。

　1節が伝えますように、イエスはご自分の活動拠点であるカペナウムに帰られました。すると2節「見よ。人々が中風の人を床に寝かせたまま、み許に運んで来た。」中風は脳や脊髄の出血や炎症で起こる体の麻痺です。マルコによりますと、男性4人が中風の人を床に寝かせたまま運んできましたが、人が多くて近づけないため、彼らは外の階段で屋上に上り、屋根を剥ぎ、そこから病人を床に寝かせたまま、イエスの前に吊り下ろしたのでした。大胆というか無茶というか…。

　しかし、イエスは2節「彼らの信仰を見て、中風の人に、『子よ、しっかりしなさい。あなたの罪は赦された』と言われた。」イエスは何もお咎めにならず、何より「彼らの信仰」をご覧になったのでした。「彼ら」とは、どんなに困難でも中風の友を運び、イエスはお癒しになれると信じる男性4人と、自らもイエスを信じ、癒しを強く願う中風の人のことです。

　イエスは彼らの「信仰」に応えて、中風の人に言われました。「子よ、しっかりしなさい。あなたの罪は赦された。」ここは「癒されている」とも訳せます。とにかく、ここに主イエスの愛がよく表れていると思います。

　第一に、イエスはこの人に「子よ」と言われました。ここで「子」と訳されているギリシア語には、特に親愛の情のこもった単語が使われています。イエスは慈しむように中風の人に「子よ」と言われたのでした。

　第二に、イエスは「しっかりしなさい」と言われました。元のギリシア語は、使徒23:11では「勇気を出しなさい」と訳されています。「元気を出しなさい」というイエスの温かい励ましが伺えます。

　第三に、「あなたの罪は赦された」とイエスは言われました。ここにイエスの実に深い愛を思います。彼らが願ったのは体の癒しでしたのに、イエスは、この人の罪に言及されたのです。

　4節が伝えますように、イエスは人の心の中の思いをもご存じの神の御子です。ヨハネ2:25も「イエスは、人の内に何があるかをよく知っておられた」と伝えます。

　ところで、イエスが言われた罪のことですが、一般に古代社会では、重い病はその人の罪の結果だと考えられがちでした。いわゆる、因果応報思想です。これはユダヤでも同じで、中風の人も重い病気の原因が自分の罪にあると思い、罪意識に苦しんでもいたとしても不思議ではありません。大きな問題に見舞われますと、私たちは、もしや自分のあの罪のためにこうなったのではないかと、自分を責めることがよくあると思います。

　何か大きな問題や苦しみに遭った時、立ち止って、自分の考え方や生き方、信仰を振り返り、神の前に見つめ直すことは、とても大切です。しかし、それを病的なまで過度にしたり、聖書を離れて行いますと、知らない内に神から離れ、心を病む危険さえあります。

　いずれにせよ、中風の人の恐らく苦しんでいた罪意識をも取り除き、神を感謝と喜びをもって仰ぎ、神に仕える積極的な信仰へこの人を導くためにイエスはこう言われました。「子よ、勇気を出しなさい。あなたの罪は赦された。私イエスを信じるあなたの罪は神の前で赦されている。安心しなさい。さあ、元気を出して！」

　教えられることは、自分だけが知っている自分の罪と苦しい罪意識からもイエスは私たちを救い、神との親しい生きた交わりを回復しようとして、私たちの心を見て下さっているということです。中風の人の心の奥をご覧になったのと同じ温かい愛と励ましに満ちた眼差しで、主は今も私たちの心を見て下さっている！イエスはそういうお方なのです。何という主の愛でしょうか。

　ところが、3節「律法学者たちが何人かそこにいて、心の中で『この人は神を冒瀆している』と言った。」彼らが思ったこと自体は、間違っていません。イエスが私たちと同じただの人間なら、「あなたの罪は赦された」などと誰かに言うことは許されません。それが出来るのは神だけです。そんなことを人間が言うのは、人間の分際を超えています。人間にはそんな権威も資格もありません。

　しかし、イエスは人間の性質をまとわれた神の御子です。子なる神です。ですから、こう言える権威をお持ちなのです。

　無論、この時、律法学者たちはイエスの本質を知らなかったのですから、3節のように考えたのも無理はありません。しかし問題は、彼らがイエスについてまだよく知らなかったことではありません。実はルカ5:17によりますと、ガリラヤとユダヤの全ての村やエルサレムからパリサイ人や律法の教師たちがここに来ていたのでした。これは異常なことです。彼らは元々、イエスの言葉尻でも捉えてイエスを攻撃し、イエスをユダヤ議会に訴えようとして、ここに陣取り、目を光らせていたのです。従って、病に苦しむ人へのイエスの温かいお気持など、思いも及びません。色眼鏡をもって意地悪い心で人を見ますと、私たちは公平で全体的な評価が出来ず、気に入らない所だけが増幅されて、目につき耳に入ります。怖いですね。

　イエスは、そういう彼らの悪意を見抜かれ、4節「何故心の中で悪い事を考えているのか」と言われたのです。更に5､6節「『あなたの罪は赦された』と言うのと、『起きて歩け』と言うのと、どちらが易しいか。しかし、人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを、あなた方が知るために」と言って、中風の人に「起きて寝床を担ぎ、家に帰りなさい」と言われました。

　どちらが易しいかは、一目瞭然です。7､8節、病人は癒されました！マルコ2:12とルカ5:25によりますると、彼は「すぐに」寝床を担ぎ、「神を崇めながら」家に帰りました。罪の赦しまで確信でき、心も魂も癒され、心から神を賛美しました。群衆も恐れはしましたが、神を崇めました。

　律法学者たちのために思わぬ展開になりましたが、この出来事を通して、とても大切なことが明らかになりました。それは6節「人の子」、すなわち、イエスが「地上で罪を赦す権威」を持っておられることです。

　人間の最大の問題は何でしょう。何故世界には、私たちの胸が痛み、憤りを抱かせるようなひどいことが、後を絶たないのでしょうか。何故人類の歴史には、侵略や殺戮のない時代がないのでしょうか。いいえ、他人事ではなく、何故私たちは神と人に仕えることよりも、自分が高く評価されることや自分の欲を満たすことに熱心で、律法学者のように意地が悪いことがあるのか。私たちは一体、自分を何者だと思って、よく人を批判するのか。私たちの内にこびりついている罪の故でなくて何でしょうか。

　この根本的な罪の問題が解決されなければ、私たちに本当の平安や安心はありません。ヘブル4:13､9:27は言います。「神の御前にあらわでない被造物はありません。神の目には全てが裸であり、さらけ出されています。この神に対して、私たちは申し開きをするのです。…人間には、一度死ぬことと死後に裁きを受けることが定まっている…。」

　どんな弁解もごまかしも、神には通じません。このままですと、私たちは思いと言葉と行いにおける自分の罪を全て、死後、永遠に償うことになります。

　いいえ、それだけではありません。生きている今だって、罪は後味が悪い。良心に痛みを覚えます。心に本当の平安はありません。ですから、使徒パウロも叫びました。ローマ7:24「私は本当に惨めな人間です。誰がこの死の体から、私を救い出してくれるのでしょうか。」

　しかし、ここに救いがあります！イエス・キリストです！イエスは天の父なる神から罪の赦しの全権を授けられ、6節「地上で罪を赦す権威」をお持ちです。ですから、私たちは地上に生きている間に、主イエスにより罪を赦して頂けるのです。

　私たちは死後、恐る恐る神の前に立ち、しかし、イエスへの信仰の故に、ようやく辛うじて罪を赦されるのではありません。私たちが自分の罪を心底憎み、けれども、私たちの罪を全部背負い、十字架で命を献げて償って下さった、全く聖い神の御子イエス・キリストを自分の救い主として心から信じ、受け入れ、依り頼むなら、私たちは今、罪を赦されます。世の終りにあるのは、その最終確認であり、神のその宣言であり、実は生きている今、罪の赦しを頂いて生きることが出来るのです。

　地上で罪を赦す権威を持ち、しかも私たちの様々な罪や汚れをよくご存じですのに、それらをではなく、私たちの「信仰」をご覧になり、「子よ、元気を出しなさい！」と励まし、神の御子イエスが私たちの地上の全人生を天国までお導き下さる！これが福音です。

　弱さのために、私たちは罪を犯しては悔い、悔いてはまた犯す、まことに弱い者ですが、その都度、何度でも悔い改め、イエスを心から信じ依り頼むなら、必ず罪を赦されます。クリスチャンは、この世で罪の赦しに与れます。自分の罪が神の前に赦される！何という幸せ、何という喜び、そして何と大きな平安でしょうか。そしてその大きな平安が私たちの内にありますと、私たちは人に対しても穏やかで、意地悪な心やずるい心、攻撃的な心、傲慢な思い、虚栄心などもますます薄れ、なくなります。そして心から神を喜び、神の聖い作品として成長を許されます。何という幸いでしょう。

　イエスは、この福音を教会を用いて世に伝えさせ、マタイ16:19が言いますように、天国の鍵を教会に与えておられます。その畏れと光栄を覚え、特に中風の人を一生懸命運んで来た人たちのように、私たちも自分の友や家族、苦しみの中にある大切な方々を、主イエスが御霊によって臨在される教会へ、是非、お連れしたいと思います。主が、どうか私たち一人一人を励まし、もっともっと用いて下さいますように！