【神様のご計画と使徒言行録】
使徒言行録は、イエス様がこの世の働きを終えられ天に帰られてから、残された１２人の使徒たちを中心とした信徒の群れがどのような働きをし、発展を遂げていったかの記録であります。
そこには、当然神様のご計画があり、神様の導きがありました。
 
又一方、その計画を妨げようとする勢力の働きがありました。
イエス様のこの地上でのご生涯、色々な場所での宣教活動、そして十字架の死、復活、そして昇天を通して表された神様の救いのご計画、それを全世界の隅々まで伝え、全ての人々に救いをもたらすという、神様のご計画はこの使徒言行録の時代から、今日に至るまで一日たりとも休ますに進められているのであります。
 
【教会の迫害者たち】
本日、私たちに与えられました、この使徒言行録１２章のところにも、初代教会において、この神様の宣教のご計画を進めようとするヤコブやペテロといった教会の指導者、そして教会に集まった信徒の群れがいます。片や、その計画を阻止しようとする、ヘロデ王やその家臣達、そしてユダヤ教の教えを守りキリスト教を異端視し迫害するユダヤ人たちがいます。
 
【ヘロデを名乗った悪王たち】
ところで、ここで出てくるヘロデですが、新約聖書にはヘロデ王がところどころに出てまいります。最初にイエス様の誕生の時のユダヤの王ヘロデ（この王を通常「へロデ大王」と呼んでいます）。次に預言者ヨハネの首をはねたヘロデ王、そして今日の箇所に出てきている若くして蛆に食われつつ死んだヘロデ王、更には使徒言行録２５章に出てくるパウロの弁明を聞くヘロデ王が出てまいります。これ全て別人であります。しかし全て「へロデ大王」の家系を継ぐ者で、ヘロデ大王の子であり、孫であり、ひ孫であります。しかし、ローマ帝国皇帝とうまく行かず失脚したものもおりますし、中にはユダヤの反乱の中で倒されたものおります。
 
【ヘロデ・アグリッパ１世】
今日のところに出てくるヘロデは「ヘロデ・アグリッパ１世」と呼ばれたヘロデ大王の孫に当たる人物であります。彼はローマで育ち、ローマ皇帝ともうまく関係を持っていたため、祖父のヘロデ大王の領地を全て貰い受けたといわれています。しかし、今日の聖書の箇所にありますが、彼の支配は、一部には服従を誓うところもありますが、紀元４４年のユダヤの大反乱の中で、３４歳の若さで死んで行ったと歴史の上では言われています。
 
【殉教者たち】
ヘロデの教会への迫害の最初の犠牲者は、使徒ヤコブでした。漁師であったヨハネの兄弟ヤコブであります。使徒の中では最も早く殉教の死を遂げたのであります。
そのヤコブの死が、ユダヤ人の支配階級や民衆に歓迎されるのをみて、ヘロデ王は更にキリストに従う者たちを厳しく取り締まる事によってユダヤ人の歓心を買い、その支配を強固なものにしていこうと、次に教会の指導者の中心であったペテロをとらまえて牢獄にぶち込み、いずれ過越祭の時に民衆の前で殺す計画を進めるのであります。
　
【教会の祈り】
この世の権力者・支配者は、自分の支配を維持し強固にするためには、少数派に対してはどんな残虐な事もするのであります。
教会の方は、この時どうしていたでしょうか。ペテロが捕らえられていくのを阻止する事も出来ず、まして力ずくでペテロを牢獄から救出する事も出来ません。では信徒たちは諦めるしかなく、成す統べなく時の過ぎるのを待つしかなかったのでしょうか。そうでは有りません。教会に出来る事が在りました。それは、神様に助けを求め、祈る事でした。
　　
１２章５節に、「こうして、ペテロは牢に入れられていた。教会では彼のために熱心な祈りが神に捧げられていた。」
神様の陣営にとって、最後のそして最も強力な戦いの術は、いつも神様の介入、神様が働いてくださる事であります。そして人間の側に出来る事は、それを求める事、求める祈りしかありません。
 
【『たとえそうでなくても』著者安利淑の戦い】
韓国の婦人伝道師が書いた『たとえそうでなくても』という分厚い書物があります。これは第二次世界大戦で日本の植民地下にあった朝鮮（韓国）の信仰の戦いの生々しい記録であります。
 
著者の安利淑（アン・イースク）さんは、韓国での植民地支配とりわけ神社参拝を強要し、天皇を神とする宗教教育を強制し、それに抵抗するキリスト教や多くの良心的宗教者達を、捕まえ投獄していった朝鮮における日本の間違った支配を止めさせようと、日本政府要人に警告のため、或いは日本のキリスト教指導者の協力を得るため、日本に来てその活動の中で捕まえられて韓国に送り返され投獄されるのであります。著書全体の２/３が刑務所での生活であり、そこでの信仰の戦いの記録であります。厳しい取調べ、飢え寒さとの戦い、又次々起こる看守や同じ囚人との信仰を守るための戦い。その中で彼女の戦いの武器は、「祈り」しかありませんでした。
 
【唯一の武器は「祈り」】
祈りが全てであり神様が祈りに応えて働いてくださる事が彼女の戦いの拠り所であり、全でした。あるときは刑務所の中が、囚人も看守も神につくものと、それに戦いを挑むものとの二手に分かれての戦いを繰り広げる場面が出てきます。勿論殴り合いのけんかや力と力の武器を取っての戦いではありません。神につくものと、神につくものを落としいれようとする、知恵と知恵の戦いであり、また信仰を守り抜こうとする人々と、その信仰をつぶしてしまおうとする人々の監獄内での戦いでありました。
 
ある詐欺犯の囚人を中心に、悪い看守や囚人と、安利淑（アン・イースク）さんを中心とした、良い看守や囚人たちのグループの戦いが起こりました。悪いグループの目的は、悪巧みを駆使して、この獄中を看守も囚人も自分達の意のままに動くようにすることであり、良い看守や良い囚人をひどい目に合わせることであります。『たとえそうでなくても』を読む（引用文省略）
 
【祈りは聞かれた】
この安利淑さんたちの祈りは神様に聞かれるのであります。
ある偶然の出来事から、彼ら悪い囚人たちや看守たち、の刑務所内の悪行、具体的には作業用の絹の反物や毛糸の盗みがばれて、悪い看守は直ちにクビになり、悪い囚人の親玉も独房の中でも最も苦しい監禁室に戻されて、看守や囚人を巻き込んだ戦いは安利淑（アン・イースク）さんらの勝利に終わるのですが、ここでこのように書いておられます。『たとえそうでなくても』を読む（引用文省略）
 
この『たとえそうでなくても』は、いつも最後のところで神様は介入してくださり、不思議な導きで神様の勝利に終わったという記録であります。
 
【天国に凱旋したものも】
しかし、一方では牢獄の中で、死刑にされたり、拷問で死んで、戦争が終わっても再び教会に戻ってこなかった牧師や信徒も多く居られたのであります。また牢獄の囚人の中で、安利淑さんらの信仰を見て獄中でクリスチャンになった後、そのまま獄中から死刑になって天国に凱旋して行く人々の姿も描かれています。その１人１人の救いのためにも多くの祈りが獄中で捧げられるのであります。
 
【信仰とは諦めない事】
今日の聖書の箇所も、救出を祈り求めていた教会の人々でさえ、半ば諦めかけている、しかし最後の望みを神様において祈り求めたのであります。「信仰とは諦めない事である」と言われます。全知全能なる神を信じる、と言う事は諦めないと言う事であります。
 
【ペテロの救出】
その祈りの結果、ペテロが殺される過越祭の前日、最後の夜に神様が介入してくださり、不思議な天使の導きによって牢獄から救出され、ペテロは教会に戻ることが出来ました。
 
片や、自分の領土を支配するために信徒を迫害し、己を神としたヘロデ王は神様の介入によって、若くして死んでいくのであります。神様の働き以外考えられない出来事であります。
 
【祈りはパイプ「強い絆」】
私たちは、主イエス・キリストの十字架の死と復活を通して神様の救いの御業を示され、神様の愛を信じるものとされた者であります。今までも、これから後も、神様は私たちに先立って、私たちとともに、歩んで下さいます。そのとき聖書のみ言葉は私たちの行く手を照らす「ともし火」であり、聖霊なる神様が取り持って下さる祈りは、神様と私を或いは私たち教会を結ぶ強い強い絆であります。
 
【私たちを担われる神】
イザヤ書46章３－４節に神様がイスラエルの人々に語られている次の言葉があります。神様は今も私たちに同じ言葉を語って下さっています。
　　　　「あなたは生まれた時から負われ、
胎を出た時から担われてきた。
同じように、私はあなたの老いる日まで
白髪になるまで、背負っていこう。
私はあなたを造った。
私が担い、背負い、救い出す。」
 
【主に立ち帰れ】
同じイザヤ書55章６－７節に神様は私たちに次のようにも語られています。
　　　　　　「主を尋ね求めよ、見出しうる時に。
　　　　　　　呼び求めよ、近くにいますうちに。
　　　　　　　神に逆らうものはその道を離れ
　　　　　　　悪を行うものはそのたくらみを捨てよ。
　　　　　　　主に立ち返るならば、主は憐れんでくださる。
　　　　　　　私たちの神に立ち帰るならば、豊かに赦してくださる。　」
　　　　　
【クリスチャンの不信仰】
しかし、今日の聖書の箇所にもありますが、教会の人々は熱心に祈りつつも、実際その祈りがかなえられ、ペテロが自分達の目の前に戻されてきたとき、それが信じられず、それを報告する女の人を、気が狂っていると非難するのであります。
 
【神の愛と信仰の父祖アブラハム】
神様はこれを見てどう思われたでしょうか。このように不徹底な私たちの信仰であり、祈りであります。しかし、そのような私たちの祈りにも耳を傾けてくださり聞いてくださる、答えてくださるのが私たちの神様であります。無から有を生じさせて下さるのがこの宇宙の全てを創造された神様であります。
 
アブラハムは、望み得ないのに、なお神様を信じ従って行きました。そのことによって信仰の父と呼ばれるまでにされたのであります。
 
これからも、神様との強い絆である祈りを通して、神様により頼みながら、神様を仰ぎ、神様に一切を委ねて信仰の道のりを、ともに歩んでまいりたいと願っております。（おわり）