2021年08月08日「喜びにあふれて」

＜説教要約＞　使徒言行録8章26-40節「よろこびにあふれて」

1．導入
先週は聖餐式の意味についての説教をいたしましたが、今日は使徒言行録に戻ります。
使徒言行録8章26節-40節まで、少し長いですが一度に見たいと思います。
登場人物は、フィリポとエチオピアの高官です。
フィリポは、ステファノと共に7人の役員の一人に選ばれた人物です。ステファノ同様、ギリシャ語を話すユダヤ人です。エルサレム教会への迫害は、特にギリシャ語を話すユダヤ人がターゲットでしたので、フィリポも迫害の対象となり、エルサレムを脱出したのです。しかし身を隠しながら逃げたわけではありません。迫害を逃れながらも彼は「人々にキリストを宣べ伝えた。」のです。彼が逃げた先はサマリヤでした。
彼はサマリアで多くの人をいやし、キリストの福音を伝えたので、多くのサマリア人がキリストを信じ洗礼を受けました。このようにして自分の働きが用いられたフィリポは、伝道者として喜びを感じ、またある手ごたえも感じていたことでしょう。

そんな折、26節で、フィリポに神からの言葉、具体的には「主の天使からの言葉が与えられた」と記されています。さて、主の天使はフィリポに、「ここをたって南に向かい、エルサレムからガザへ下る道に行け」と言った。（8：26）さらにルカはこんなことを記しています。「そこは寂しい道である。」と。
サマリアでの働きを経験したフィリポは、これからもたくさんの人にキリストの福音を伝えたいという思いがあったと思います。ところが、次の行き先に示されたのは、「エルサレムからガザへ下る道」。「そこは寂しい道である」とあります。フィリポはこの言葉を、どのように受け止めたのでしょうか。人がいない寂しい道に行って、いったい誰に福音を伝えるのだろうか？　どうして主は、そんな場所へ自分を導かれるのだろう？？　そんなことを思ったかもしれません。それでもフィリポは主の言葉に従って「すぐ出かけて行った」のです。

しかしこの導きには、主のご計画と理由がありました。主は、フィリポに会わせたい人がいたのです。
次の27節後半から28節。「折から、エチオピアの女王カンダケの高官で、女王の全財産の管理をしていたエチオピア人の宦官が、エルサレムに礼拝に来て、帰る途中であった。彼は、馬車に乗って預言者イザヤの書を朗読していた。」とあり、主は、フィリポをこの人に出会わせるため、寂しい道に導いたのです。

この人はエルサレム神殿に礼拝に行った帰り。つまり旧約聖書の神、唯一神を信じ、礼拝する人物であり、旧約聖書を知りたいと願っていたのです。神は、この人物に目を留め、フィリポをこの人のもとへ遣わしたのです。
フィリポが馬車に近づくと、彼がイザヤ書を朗読しているのが聞こえｍした。それでフィリポは、すぐに声をかけました。30節、「読んでいることがお分かりになりますか」と。
宦官は答えました。31節、「手引きしてくれる人がなければ、どうして分かりましょう」。
この人が読んでいたのは、ギリシャ語訳聖書のイザヤ書の53章7節、8節。「主のしもべの歌と言われる、イザヤ書の中でもとても有名な箇所です。
この人は、旧約聖書が語る神、天地万物をお造りになった真の神を信じ、遠いアフリカからエルサレムまで、唯一の真の神を礼拝しに来ていたのです。そしてギリシャ語訳の聖書を読み、旧約聖書が教える唯一の真の神について、もっと知りたいと思っていました。ですから、すかさずフィリポに尋ねています。
34節。「どうぞ教えてください。預言者は、だれについてこう言っているのでしょうか。自分についてですか。だれかほかの人についてですか。」
この人は、預言者イザヤが語っている人、苦役を課せられ、捕えられても口を開かず、ついには命まで取られた人が、いったい誰なのか知りたいというのです。

ここで預言者イザヤが語っているのは、自分のことではなく、やがて来るメシアのこと。
そしてこのメシア、救い主は既に地上においでになったイエスであること。
イエスは、神の御子であるにもかかわらず、人として地上生涯を歩まれたこと。
友なき人の友となり、傷つき虐げられた人を癒し、形式主義のユダヤ教指導者たちを論破したこと。しかし、その生涯で何一つ罪を犯さなかったこと。
その方が、最後には人々に捨てられ、きちんとした裁判も行われないまま、十字架にかけられたこと。
彼を裁こうとする人々に対して、一切言い訳をせず、黙したまま、十字架に向かわれたこと。
私たちの罪のため十字架にかかって、神の裁きを受けられたこと。
これらを信じ、洗礼を受けることで、神の霊が与えられ、イエスと結ばれて神の国を継ぐものとされること。
旧約聖書が語るメシアは、イエス・キリストであることを丁寧に語っていったのです。
35節。フィリポは口を開き、聖書のこの個所から説きおこして、イエスについて福音を告げ知らせた。
とあります。そして、高官は、フィリポの言葉を理解し、そして洗礼を願い出たのです。
36節。 道を進んで行くうちに、彼らは水のある所に来た。宦官は言った。「ここに水があります。洗礼を受けるのに、何か妨げがあるでしょうか。」
フィリポも、神がみ言葉を通して彼に信仰を与えられたことを理解し、
8:38車を止めさせた。フィリポと宦官は二人とも水の中に入って行き、フィリポは宦官に洗礼を授けた。のです。
するとどうでしょう。不思議なことが起こりました。
8:39 彼らが水の中から上がると、主の霊がフィリポを連れ去った。宦官はもはやフィリポの姿を見なかったが、喜びにあふれて旅を続けた。とあります。フィリポがその場から突然消えてしまったのです。
しかし高官はフィリポを探しません。この人は、洗礼を授けられ、確かにキリストに結ばれたことを確信したのです。聖霊によって、この人の心にキリストが主として結び付けられ、確かな喜び、神との平和が与えられたのです。彼の心は「喜びにあふれた」という言葉でそれが表現されています。

今日の話はここまでですが、ここから私たちにもろんなことが教えられています。
①まず、聖書の読み方、特に旧約聖書の読み方です。旧約聖書は、来るべきキリストを預言し、指し示していますから、そのことを念頭に置いて読んでいくと、理解が進みます。
②自分の常識だけに従うのではなく、神の思い、神の意志を見極めることが大切です。
③福音宣教は神の意志と計画によって進んで行くが、そこに必ず人が用いられます。
④福音宣教の対象はすべての人です。しかし、私の目の前にいるあの方、この方、に語ることから始まるのです。
ドイツの神学者であり、第2次世界大戦のとき処刑されたボンヘッファーという人の言葉を紹介しておきます。
「ある人が神の言葉によって捕えられると、彼はそれを次の人に語る。このように、人間の口を通してなされる兄弟の証によって、神は、我々が生ける神の言葉を求めたり、また見出したりすることを望んでいるのである。それゆえキリスト者は、彼にみ言葉を語ってくれる他のキリスト者を必要とする。キリスト者は心が動揺し、気落ちしている時は、いつも他のキリスト者を必要とする。」（「主のよき力に守られて」より）