2020年12月20日「神が近くに来てくださった」

＜説教要約＞
マタイによる福音書1章18-25節「神が近くに来てくださった」

今朝は、マタイによる福音書からクリスマスの意味を確認し、キリスト教の神、聖書の神がどのような神なのかを覚えたいと考えています。

今日の説教は18節からですが、その前の「イエス・キリストの系図」という所をまず見たいと思います。ここには日本でいうなら家系図、つまり先祖の名が長々と記されています。
この家系図の最後は16節。
1:16 ヤコブはマリアの夫ヨセフをもうけた。このマリアからメシアと呼ばれるイエスがお生まれになった。です。
ユダヤ人は系図を大切にする民族だそうです。自分たちの先祖を大切にしているのです。ですから、イエス・キリストにだけ、特別に系図があるわけではありません。マタイ福音書を書いたマタイが、ヨセフとマリヤの子供として誕生したイエスの系図を調べてここに記したのです。ですが、マタイは、この系図に登場するすべての人の名を記したわけではありません。実際にはここに省かれている名前もあります。著者であるマタイの編集意図があるからです。
マタイはこの系図を、人間の系図、ヨセフ家の系図として記しているわけではありません。この系図は、イエス・キリストの系図。つまり救い主誕生の系図であり、神の救いの契約（約束）の系図として、記しているのです。ですから、マタイはこの系図を、神が救いの約束をお与えになったアブラハムから始めています。
アブラハムは、旧約聖書の創世記に登場する人物です。神は、このアブラハムに目を留め、選び、彼と彼の子孫を祝福すると約束なさいました。
その最初の約束が記されているのは、創世記12章1～3節です。
主はアブラムに言われた。「あなたは生まれ故郷／父の家を離れて／わたしが示す地に行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民にし／あなたを祝福し、あなたの名を高める／祝福の源となるように。あなたを祝福する人をわたしは祝福し／あなたを呪う者をわたしは呪う。地上の氏族はすべて／あなたによって祝福に入る。」（創世記12：1-3）
これは今から約4000年、キリストの誕生から2000年前に、神がアブラハムに与えられた約束です。

また、この系図でもう一人大切な人物が6節に登場する「ダビデ」です。ダビデは、イスラエルが王制に移行した二代目の王様。そしてアブラハムと同じように神から祝福の約束を受けた人物です。
その約束も確認しましょう。サムエル記下7：12、16
あなたが生涯を終え、先祖と共に眠るとき、あなたの身から出る子孫に跡を継がせ、その王国を揺るぎないものとする。（サムエル下7：12）
あなたの家、あなたの王国は、あなたの行く手にとこしえに続き、あなたの王座はとこしえに堅く据えられる。（サムエル下7：16）
16節で、神はダビデの王座がとこしえに続くと約束しています。ところが、ダビデの王座を継いだソロモン王のあと、イスラエルは神から離れて偶像へと向かいました。結果、イスラエル王国は北と南に分裂し、その後両方ともに他国に滅ぼされてしまったのです。ですから、実際にはダビデの王座は続きませんでした。
国を失い苦境に立たされたユダヤ人たちは、その時になって再び、自分たちの先祖が信じていた真の神に立ち帰り「ダビデの子孫からイスラエルを救う救世主、救い主が誕生する」という約束を思い出して、その実現を待ち続けました。
こういう背景があって誕生したのがイエス・キリストです。マタイは福音書の最初にこの系図を記すことで、イエス・キリストこそが、神がアブラハムに約束された祝福の実現であり、ダビデの子孫から与えられるまことの王、約束の救い主だと教えているのです。
ですから、イエス・キリストの誕生は、ヨセフとマリアの間にたまたま子供が生まれた、という話ではありません。神が何千年もの間、ご自身の民をあきらめず、見守り続け、そしてご自身の民に祝福を与えるために着々と推し進めてきた、神の御業がとうとう実現した出来事。　まことの救い主、神のみ子の誕生なのです。

マリアの妊娠は、2000年前の人々にとっても、現代の私たちにとっても、常識では考えられない不思議な出来事です。18節にこのように記されています。
イエス・キリストの誕生の次第は次のようであった。母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。（マタイ1：18）
イエス・キリストは通常の男女の営みによって誕生したのではなく、聖霊によって、つまり特別な神の力によって、マリヤの体に宿ったのです。これは、神の力によって起こった出来事です。常識では考えられない特別な事ですから、そのために特別に神からの天使がヨセフのもとに遣わされました。20節。
「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。」（マタイ1：20）と。
聖書協会共同訳聖書は
1:20「ダビデの子ヨセフ、恐れずマリアを妻に迎えなさい。マリアに宿った子は聖霊の働きによるのである。」と訳しています。神から遣わされた天使のおかげで、ヨセフは安心してマリアを妻として迎え入れ、イエスが生まれるまで大切にマリアを保護し、イエスが誕生した後もマリアと一緒にその成長を見守りました。
ここで「聖霊によって身ごもった」「聖霊によって宿った」ということが強調されています。これは聖霊なる神の力によって、ということですが、同時に神の聖なる霊、聖い力によって宿った、罪も汚れもない神のみ子、ということでもあります。イエスが罪も汚れもないお方として生まれ、地上生涯を罪を犯すことなく歩まれたことは、とても重要なことです。
このようにして、神が地上に、私たちのもとへ、私たちの近くに来てくださったのです。
では、何のために神は地上に来てくださったのでしょうか。

21節の天使の言葉の中にその答えがあります。
「マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」（マタイ1：20）
ここで言う罪とは、犯罪者という意味ではありません。聖書で言う罪とは、私たちを愛し、慈しんでくださるまことの神に背を向けて生きること。自分の意志、自分の思い、自分の欲望にだけ従って生きることです。最初の人類であるアダムとエバ以降、神に背を向けて生き始めた人間の世界は、悪がはびこっていきました。人間が自分中心に、自分の幸いだけを追求して生きる時、世界は悲惨な状況になります。
しかし、そういう暗い地上世界に、罪も汚れもない神のみ子が来てくださったのです。それは、「自分の民を罪から救う」ためでした。「自分の民」とは、イエス・キリストを神のみ子、私の神として迎え入れ、信じる人たちのこと。イエス・キリストを信じ受け入れる者たちを、罪から救いだすために、彼は人となって地上に来てくださったのです。
22節、23節を読みます。
このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。（マタイ1：22、23）
「神が近くに来てくださった」この出来事は、何千年も前から神が約束しておられたこと、旧約聖書の預言者の口を通して、神が人々に語っておられた祝福の約束の実現、成就でした。

考えてみれば、旧約聖書の神は、私たちの手の届かないところにおられました。もちろん、神は、神を信じより頼む旧約の人々に目を注ぎ、祈りをお聞きになり、力を与え、助けてくださる、そういうお方でした。しかし、罪深い人間の世に、この地上に、住んではおられませんでした。
ところが、イエス・キリストは、こうしてクリスマスの夜に地上に、私たちのところに来てくださったのです。神でありながら、私たちと同じ人間の体を取って地上に生まれ、私たちと共に生活なさいました。それは今まで以上に、神が私たち人間に近付いてくださったということです。そしてこれは、「神が人を愛しておられる」ということの最大の表現なのです。イエス・キリストが地上に来てくださった、そのことの意味を新約聖書、ヨハネ福音書から確認しましょう。4か所読みます。
①神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。（ヨハネ3：16）
神の御子、イエス・キリストは、彼を信じる者が滅びることなく、永遠の命を得るために、神が地上へと遣わされた方です。
②御子を信じる人は永遠の命を得ているが、御子に従わない者は、命にあずかることがないばかりか、神の怒りがその上にとどまる。（ヨハネ3：36）
しかし、御子イエスを認めないもの、信じないものには神の怒りがとどまる、とヨハネは記しています。
③わたしの父の御心は、子を見て信じる者が皆永遠の命を得ることであり、わたしがその人を終わりの日に復活させることだからである。（ヨハネ6：40）
永遠の命とは、具体的には死からの復活です。父なる神は、私たちが御子イエスを見て、信じること、そして終りの日の復活にまで預かることを望んでおられます。
④イエスは言われた。「わたしは復活であり、命である。わたしを信じる者は、死んでも生きる。 生きていてわたしを信じる者はだれも、決して死ぬことはない。このことを信じるか。」（ヨハネ11：25-26　）
永遠の命とは、神と共に生きる命のこと。地上生涯でも、死んだ後も、そしてこの世界が終わっても、神の恵みと憐みの中で生きることです。

旧約聖書の神は、人間とかかわりを持つことで愛を示してこられました。
しかし、それにとどまらず、神はイエス・キリストを地上に送ることを通して、私たちに積極的にかかわってくださり、さらなる愛を示されたのです。
イエス・キリストの誕生、クリスマスの出来事は、このように私たち人間を愛し、かかわろうとされる神がなさった象徴的な出来事です。
私たちは、イエス・キリストを信じることを通して、さらなる神の愛を受け取ることができるのです。
「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。（マタイ1：23）