平和を望む知恵のある女 2023年3月29日(水曜 聖書と祈りの会)

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平和を望む知恵のある女

日付
説教
村田寿和 牧師
聖書
サムエル記下 20章14節~26節

聖句のアイコン聖書の言葉

20:14 シェバはイスラエルの全部族を通って行って、ベト・マアカのアベルまで来ていた。選び抜かれた兵が寄り集まり彼に従った。
20:15 ヨアブに従う兵士全員がベト・マアカのアベルに到着しシェバを包囲した。町に向けて外壁の高さほどの塁を築き、城壁を崩そうと試みていると、
20:16 知恵のある女が町から呼ばわった。「聞いてください。聞いてください。『ここに近寄ってください。申し上げたいことがあります』とヨアブさまに伝えてください。」
20:17 ヨアブが近寄ると女は言った。「あなたがヨアブさまですか。」「そうだ」と彼は答えた。彼女は言った。「はしための言葉を聞いてください。」「聞こう」とヨアブが答えると、
20:18 女は言った。「昔から、『アベルで尋ねよ』と言えば、事は片づいたのです。
20:19 わたしはイスラエルの中で平和を望む忠実な者の一人です。あなたはイスラエルの母なる町を滅ぼそうとしておられます。何故、あなたは主の嗣業を呑み尽くそうとなさるのですか。」
20:20 ヨアブは答えた。「決してそのようなことはない。呑み尽くしたり、滅ぼしたりすることなど考えてもいない。
20:21 そうではない。エフライム山地の出身で、名をビクリの子シェバという者がダビデ王に向かって手を上げたのだ。その男一人を渡してくれれば、この町から引き揚げよう。」女はヨアブに言った。「その男の首を城壁の上からあなたのもとへ投げ落とします。」
20:22 女は知恵を用いてすべての民のもとに行き、ビクリの子シェバの首を切り落とさせ、ヨアブに向けてそれを投げ落とした。ヨアブは角笛を吹き鳴らし、兵はこの町からそれぞれの天幕に散って行った。ヨアブはエルサレムの王のもとへ戻った。
20:23 ヨアブはイスラエル全軍の司令官。ヨヤダの子ベナヤはクレタ人とペレティ人の監督官。
20:24 アドラムは労役の監督官。アヒルドの子ヨシャファトは補佐官。
20:25 シェワは書記官。ツァドクとアビアタルは祭司。
20:26 ヤイル人イラもダビデの祭司。サムエル記下 20章14節~26節

原稿のアイコンメッセージ

 前回私たちは、ベニヤミン人ビクリの息子シェバがダビデ王に反逆したことを学びました。今朝の御言葉はその続きであります。シェバは、イスラエルのすべての部族を巡り歩いて、ベト・マアカのアベルまで来ていました。ベト・マアカのアベルは、イスラエルの最北端の町です。聖書地図の「第4図 統一王国時代」を見ると、その場所を確認することができます(ダンの西約7キロメートル)。ギルガルで、角笛を吹き鳴らして、反逆の狼煙を上げたシェバは、ベト・マアカのアベルまで逃れて来たのです。14節の後半に、「選び抜かれた兵が寄り集まり彼に従った」とありますが、聖書協会共同訳はこのところを「ビクリの一党も皆集まって来て、彼に従った」と翻訳しています。2節に、「イスラエルの人々は皆ダビデを離れ、ビクリの息子シェバに従った」と記されていましたが、シェバと行動を共にしたのは、同じ一族であるビクリの一党だけであったのです。ベト・マアカのアベルは、城壁に囲まれた町でした。シェバとビクリの一党は、城壁のある町、ベト・マアカのアベルに身を隠したのです。しかし、そのことはヨアブたちの知るところとなります。アマサを殺して司令官になったヨアブと兵士たちは、アベルの町を包囲しました。ヨアブと兵士たちは、城壁を崩そうと、外壁の高さほどある塁を築きました。ちなみに塁とは「土や石を積んでつくった防御用の構築物。とりで」のことです(明鏡国語辞典)。その様子を見て、知恵のある女が町からこう呼ばわりました。「聞いてください。聞いてください。『ここに近寄ってください。申し上げたいことがあります』とヨアブさまに伝えてください」。ヨアブが近寄ると、女はこう言いました。「あなたがヨアブさまですか」。ヨアブが「そうだ」と答えると、女はこう言いました。「はしための言葉を聞いてください」。ヨアブが「聞こう」と答えると女はこう言いました。「昔から、『アベルで尋ねよ』と言えば、事は片付いたのです。わたしはイスラエルの中で平和を望む忠実な者の一人です。あなたはイスラエルの母なる町を滅ぼそうとしておられます。何故、あなたは主の嗣業を呑み尽くそうとされるのですか」。アベルは、周りの町々の争いを仲裁してきた町であったようです。「そのような町を、なぜ、あなたは滅ぼそうとされるのですか」と、女は平和を望む忠実な者の一人として尋ねます。ヨアブはこう答えました。「決してそのようなことはない。呑み尽くしたり、滅ぼしたりすることなど考えていない。そうではない。エフライム山地の出身で、名をビクリの子シェバという者がダビデ王に向かって手を上げたのだ。その男一人を渡してくれれば、この町から引き上げよう」。ここで、ヨアブは自分たちの目的を伝えます。塁を築いて城壁を打ち破ろうとしているのは、アベルの町を滅ぼすためではなく、アベルの町に逃げ込んだ、反逆者であるシェバを捕らえるためであるとヨアブは女に告げるのです。すると、女はヨアブにこう言いました。「その男の首を城壁の上からあなたのもとへ投げ落とします」。女は知恵を用いてすべての民のもとに行き、ビクリの子シェバの首を切り落とさせました。女は、アベルの住民にヨアブの言葉を伝えて、自分たちが滅ぼされることがないように、ビクリの子シェバの首を切り落とすよう説得したのです。そして、シェバの首をヨアブに向けて投げ落としたのでした。ヨアブは、角笛を吹き鳴らし、兵はこの町からそれぞれの天幕へ帰って行きました。そして、ヨアブは、シェバの首を携えて、エルサレムのダビデ王のもとへ戻って行ったのです。この後、ヨアブとダビデとの間にどのような会話が交わされたのかは記されていません。しかし、23節を見ると、「ヨアブはイスラエル全軍の司令官」とありますから、ダビデはヨアブを司令官として再び任命したようです。ダビデ王が司令官に任命したアマサをヨアブが殺したことは、王に対する反逆とも言える行為です。しかし、シェバの首を持って帰って来たヨアブを、ダビデは罰することなく、イスラエル全軍の司令官に任命するのです。けれども、前回お話ししたように、ダビデは、ヨアブがイスラエル軍の司令官アブネルとユダ軍の司令官アマサを殺した罪を忘れることはありませんでした。ヨアブの流血の罪への罰は、王子ソロモンの手によって下されることになるのです(列王下2章参照)。

 23節から26節に記されている「ダビデの重臣たち」のリストを見ると、24節に、「アドラムは労役の監督官」とあります。第8章15節から18節まで記されていた「ダビデの重臣たち」のリストには、「労役の監督官」という役職はありませんでした。ダビデの王権が確立していくことにより、国民に対して労役が課せられていたのです。そして、この労役が、後にイスラエルとユダが2つの王国に分裂する原因となるのです。『列王記上』の第12章1節から19節までをお読みします。旧約の551ページです。

 すべてのイスラエル人が王を立てるためにシケムに集まって来るというので、レハブアムもシケムに行った。ネバトの子ヤロブアムは、ソロモン王を避けて逃亡した先のエジプトにいて、このことを聞いたが、なおエジプトにとどまっていた。ヤロブアムを呼びに使いが送られて来たので、彼もイスラエルの全会衆と共に来て、レハブアムにこう言った。「あなたの父上はわたしたちに苛酷な軛を負わせました。今、あなたの父上がわたしたちに課した苛酷な労働、重い軛を軽くしてください。そうすれば、わたしたちはあなたにお仕えいたします。」彼が、「行け、三日たってからまた来るがよい」と答えたので、民は立ち去った。レハブアム王は、存命中の父ソロモンに仕えていた長老たちに相談した。この民にどう答えたらよいと思うか。」彼らは答えた。「もしあなたが今日この民の僕となり、彼らに仕えてその求めに応じ、優しい言葉をかけるなら、彼らはいつまでもあなたに仕えるはずです。」しかし、彼はこの長老たちの勧めを捨て、自分と共に育ち、自分に仕えている若者たちに相談した。

「我々はこの民に何と答えたらよいと思うか。彼らは父が課した軛を軽くしろと言ってきた。」彼と共に育った若者たちは答えた。「あなたの父上が負わせた重い軛を軽くせよと言ってきたこの民に、こう告げなさい。『わたしの小指は父の腰より太い。父がお前たちに重い軛を負わせたのだから、わたしは更にそれを重くする。父がお前たちを鞭で懲らしめたのだから、わたしはさそりで懲らしめる。』」

 三日目にまた来るようにとの王の言葉に従って、三日目にヤロブアムとすべての民はレハブアムのところに来た。王は彼らに厳しい回答を与えた。王は長老たちの勧めを捨て、若者たちの勧めに従って言った。「父がお前たちに重い軛を負わせたのだから、わたしは更にそれを重くする。父がお前たちを鞭で懲らしめたのだから、わたしはさそりで懲らしめる。」王は民の願いを聞き入れなかった。こうなったのは主の計らいによる。主は、かつてシロのアヒヤを通してネバトの子ヤロブアムに告げられた御言葉をこうして実現された。

 イスラエルのすべての人々は、王が耳を貸さないのを見て、王に言葉を返した。「ダビデの家に我々の受け継ぐ分が少しでもあろうか。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ。ダビデよ、今後自分の家のことは自分で見るがよい。」こうして、イスラエルの人々は自分の天幕に帰って行った。レハブアムは、ただユダの町々に住むイスラエル人に対してのみ王であり続けた。レハブアム王は労役の監督アドラムを遣わしたが、イスラエルのすべての人々は彼を石で打ち殺したため、レハブアム王は急いで戦車に乗り込み、エルサレムに逃げ帰った。このようにイスラエルはダビデの家に背き、今日に至っている。

 ソロモン王の息子レハブアムが労役を軽くするどころか、更に重くすることを宣言したとき、イスラエルの人々は、かつてシェバが叫んだ言葉を口にしました。「ダビデの家に我々の受け継ぐ分が少しでもあろうか。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ。ダビデよ、今後自分の家のことは自分で見るがよい」。ダビデは、シェバを殺すことによって、ユダとイスラエルの王であり続けることができました。しかし、ダビデの子ソロモンの子レハブアムのときに、ユダとイスラエルは分裂することになるのです。それは主の計らいによることでありましたが、人間的に言えば、民の声に耳を貸さなかったレハブアムの愚かさのゆえであるのです。

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