アヒトフェルとフシャイ 2022年11月30日(水曜 聖書と祈りの会)
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アヒトフェルとフシャイ
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- 村田寿和 牧師
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サムエル記下 17章1節~14節
聖書の言葉
17:1 アヒトフェルはアブサロムに言った。「一万二千の兵をわたしに選ばせてください。今夜のうちに出発してダビデを追跡します。
17:2 疲れて力を失っているところを急襲すれば、彼は恐れ、彼に従っている兵士も全員逃げ出すでしょう。わたしは王一人を討ち取ります。
17:3 兵士全員をあなたのもとに連れ戻します。あなたのねらっておられる人のもとに、かつてすべての者が帰ったように。そうすれば、民全体が平和になります。」
17:4 この言葉はアブサロムにも、イスラエルの長老全員の目にも正しいものと映った。
17:5 アブサロムは、「アルキ人フシャイも呼べ。彼の言うことも聞いてみよう」と言い、
17:6 フシャイがアブサロムのもとに呼び出された。アブサロムは言った。「これこれのことをアヒトフェルは提言したが、そうすべきだと思うか。反対なら、お前も提言してみよ。」
17:7 フシャイはアブサロムに、「今回アヒトフェルが提案したことは良いとは思えません」と言い、
17:8 こう続けた。「父上とその軍がどれほど勇敢かはご存じのとおりです。その上、彼らは子を奪われた野にいる熊のように気が荒くなっています。父上は戦術に秀でた方ですから、兵と共にはお休みにならず、
17:9 今ごろは、洞穴かどこかを見つけて身を隠しておられることでしょう。最初の攻撃に失敗すれば、それを聞いた者は、アブサロムに従う兵士が打ち負かされた、と考え、
17:10 獅子のような心を持つ戦士であっても、弱気になります。父上も彼に従う戦士たちも勇者であることは、全イスラエルがよく知っているからです。
17:11 わたしはこう提案いたします。まず王の下に全イスラエルを集結させることです。ダンからベエル・シェバに至る全国から、海辺の砂のように多くの兵士を集結させ、御自身で率いて戦闘に出られることです。
17:12 隠れ場の一つにいる父上を襲いましょう。露が土に降りるように我々が彼に襲いかかれば、彼に従う兵が多くても、一人も残ることはないでしょう。
17:13 父上がどこかの町に身を寄せるなら、全イスラエルでその町に縄をかけ、引いて行って川にほうり込み、小石一つ残らなくしようではありませんか。」
17:14 アブサロムも、どのイスラエル人も、アルキ人フシャイの提案がアヒトフェルの提案にまさると思った。アヒトフェルの優れた提案が捨てられ、アブサロムに災いがくだることを主が定められたからである。サムエル記下 17章1節~14節
メッセージ
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今朝は、『サムエル記下』の第17章1節から14節より、「アヒトフェルとフシャイ」という題でお話しします。
前回、私たちは、アブサロムがアヒトフェルの提案に従って、全イスラエルの注目の中で、父ダビデの側女たちのところに入ったことを読みました。アブサロムは、父ダビデの側女のところに入ることによって、既成事実として、自分が父ダビデに代わる王となったことをイスラエルの人々に知らしめたのです。今朝の御言葉は、その続きであります。
アヒトフェルは、アブサロムにこう言いました。「一万二千の兵をわたしに選ばせてください。今夜のうちに出発してダビデを追跡します。疲れて力を失っているところを急襲すれば、彼は恐れ、彼に従っている兵士も全員逃げ出すでしょう。わたしは王一人を討ちます。兵士全員をあなたのもとに連れ戻します。あなたのねらっておられる人のもとに、かつてすべての者が帰ったように。そうすれば、民全体が平和になります」。アヒトフェルは、アブサロムをエルサレムに残して、自分が兵を率いて、夜中に奇襲をかけることを提案します。アヒトフェルの目的は、ダビデ王一人を討ち取って、アブサロムのもとに兵士たちを連れ戻すことでした。このアヒトフェルの言葉は、アブサロムと長老全員の目に正しいものと映りました。しかし、アブサロムは不安であったようです。アブサロムは、「アルキ人フシャイも呼び。彼の言うことも聞いてみよう」と言って、フシャイを呼び出しました。このフシャイは、ダビデの友で、ダビデからアヒトフェルの助言を覆すようにと命じられていました(15:34参照)。フシャイはダビデの密偵、スパイであったのです。そのことを知らずに、アブサロムは、フシャイにこう言います。「これこれのことをアヒトフェルは提言したが、そうすべきだと思うか。反対なら、お前も提言してみよ」。するとフシャイはこう言いました。「今回アヒトフェルが提案したことは良いとは思えません」。フシャイは、アヒトフェルの提案を覆す密命を受けていますので、当然、このように答えたわけです。そして、フシャイは、アヒトフェルの提案とはまったく反対のことを提案するのです。フシャイは続けてこう言います。8節から10節までを読みます。
「父上とその軍がどれほど勇敢かはご存じのとおりです。その上、彼らは子を奪われた野にいる熊のように気が荒くなっています。父上は戦術に秀でた方ですから、兵と共にはお休みにならず、今ごろは、洞穴かどこかを見つけて身を隠しておられることでしょう。最初の攻撃に失敗すれば、それを聞いた者は、アブサロムに従う兵士が打ち負かされた、と考え、獅子のような心を持つ戦士であっても、弱気になります。父上も彼に従う戦士たちも勇者であることは、全イスラエルがよく知っているからです。」
先程のアヒトフェルは「父上」という言葉を用いませんでした(17:3「あなたのねらっておられる人」参照)。アヒトフェルは、アブサロムが良心の呵責を覚えることがないように、「父上」という言葉を用いなかったのです。しかし、フシャイは「父上」という言葉を何度も用いることによって、アブサロムにとってダビデが父親であることを思い起こさせます(8、10、12、13節)。アヒトフェルは、ダビデと兵士たちが「疲れて力を失っている」と言いました(17:2)。そして、実際、ダビデと兵士たちは疲れて、荒れ野の渡し場で待っていたのです(16:14参照)。しかし、フシャイは、ダビデとその兵士たちが勇敢な強者どもであるというアブサロムと人々の記憶に訴えて、恐れをいだかせます。フシャイは、ダビデとその兵士たちを「子を奪われた野にいる熊」に譬えて気が荒くなっていると言い、ダビデは戦術に秀でているので、今ごろ洞穴のどこかに身を隠していると言うのです。さらに、フシャイは、最初の攻撃が失敗する可能性と失敗したときの結果を語ることによって、今夜の内に奇襲をかけることを思いとどまらせるのです。
さらに、フシャイはこう言います。11節から13節までを読みます。
「わたしはこう提案いたします。まず王の下に全イスラエルを集結させることです。ダンからベエル・シェバに至る全国から、海辺の砂のように多くの兵士を集結させ、御自身で率いて戦闘に出られることです。隠れ場の一つにいる父上を襲いましょう。露が土に降りるように我々が彼に襲いかかれば、彼に従う兵が多くても、一人も残ることはないでしょう。父上がどこかの町に身を寄せるなら、全イスラエルでその町に縄をかけ、引いて行って川にほうり込み、小石一つ残らなくしようではありませんか。」
アヒトフェルが、精鋭部隊によって、ダビデ王一人を討ち取ることを提案したのに対して、フシャイは、アブサロムのもとに全イスラエルを集めて、ダビデとその兵士たちを皆殺しにすることを提案します。アヒトフェルは、アブサロムをエルサレムに残して、自分が兵を率いてダビデ一人を討つと言いました。それは、このクーデターにおいて、アブサロムの命が大切であることを知っていたからです。しかし、フシャイは、アブサロムのもとに兵士たちを集めて、アブサロム自身で率いて戦うことを提案するのです。そのようにして、フシャイは、アブサロムの名誉欲をくすぐるのです。フシャイの言葉は、大げさな譬えで飾られており、現実的ではないように思います。「海辺の砂のように多くの兵士」とか、「露が土に降りるように我々が彼を襲う」とか、「町に縄をかけ、引いて行って川にほうり込む」とか、軍事作戦の提案とは思えない言葉で飾られています。しかし、そのような大げさな表現が、アブサロムと人々の心に訴えたのでしょう。アブサロムも、どのイスラエル人も、アルキ人フシャイの提案がアヒトフェルの提案にまさっていると思ったのです。このようにして、アヒトフェルの優れた提案は捨てられることになるのです。もし、アブサロムと人々が、アヒトフェルの優れた提案のとおりにしていたら、ダビデは殺されていたことでしょう(17:16参照)。しかし、そうはなりませんでした。アヒトフェルの優れた提案が捨てられて、フシャイの提案が採用されることになったのです。それは、「アブサロムに災いがくだることを主が定めておられたから」です。ダビデに油を注いで、イスラエルの王とされた主は、ダビデと共におられ、ダビデに敵対する者に災いをくだされるのです。アブサロムではなく、ダビデこそが、主が選ばれたイスラエルの王であるのです(16:18参照)。