アブサロムの反逆 2022年9月28日(水曜 聖書と祈りの会)

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アブサロムの反逆

日付
説教
村田寿和 牧師
聖書
サムエル記下 15章1節~16節

聖句のアイコン聖書の言葉

15:1 その後、アブサロムは戦車と馬、ならびに五十人の護衛兵を自分のために整えた。
15:2 アブサロムは朝早く起き、城門への道の傍らに立った。争いがあり、王に裁定を求めに来る者をだれかれなく呼び止めて、その出身地を尋ね、「僕はイスラエル諸部族の一つに属しています」と答えると、
15:3 アブサロムはその人に向かってこう言うことにしていた。「いいか。お前の訴えは正しいし、弁護できる。だがあの王の下では聞いてくれる者はいない。」
15:4 アブサロムは、こうも言った。「わたしがこの地の裁き人であれば、争い事や申し立てのある者を皆、正当に裁いてやれるのに。」
15:5 また、彼に近づいて礼をする者があれば、手を差し伸べて彼を抱き、口づけした。
15:6 アブサロムは、王に裁定を求めてやって来るイスラエル人すべてにこのようにふるまい、イスラエルの人々の心を盗み取った。
15:7 四十歳になった年の終わりにアブサロムは王に願った。「主への誓願を果たすため、ヘブロンに行かせてください。
15:8 僕はアラムのゲシュルに滞在していたとき、もし主がわたしをエルサレムに連れ戻してくださるなら主に仕える、と誓いました。」
15:9 王が「平和に行って来るように」と言ったので、アブサロムは立ってヘブロンに向かった。
15:10 アブサロムはイスラエルの全部族に密使を送り、角笛の音を合図に、「アブサロムがヘブロンで王となった」と言うように命じた。
15:11 このときエルサレムから二百人の者がアブサロムと共に出かけたが、招きに応じて同行しただけで、何も知らされてはいなかった。
15:12 いけにえをささげるにあたって、アブサロムは使いを送り、ダビデの顧問であるギロ人アヒトフェルを彼の町ギロから迎えた。陰謀が固められてゆき、アブサロムのもとに集まる民は次第に数を増した。
15:13 イスラエル人の心はアブサロムに移っているという知らせが、ダビデに届いた。
15:14 ダビデは、自分と共にエルサレムにいる家臣全員に言った。「直ちに逃れよう。アブサロムを避けられなくなってはいけない。我々が急がなければ、アブサロムがすぐに我々に追いつき、危害を与え、この都を剣にかけるだろう。」
15:15 王の家臣たちは言った。「主君、王よ、僕たちはすべて御判断のとおりにいたします。」
15:16 こうして王は出発し、王宮の者が皆、その後に従った。王は王宮を守らせるために十人の側女を残した。サムエル記下 15章1節~16節

原稿のアイコンメッセージ

 今朝は、『サムエル記下』の第15章1節から16節より、「アブサロムの反逆」という題でお話しします。

 前回、私たちは、ダビデ王とアブサロムが和解した場面を読みました。アブサロムは王の前に出てひれ伏し、王はアブサロムに口づけしました。その後、アブサロムは戦車一台とその戦車を引く二頭の馬、ならびに戦車の前を走る50人の護衛兵を自分のために整えました。そのようにして、アブサロムは、王位を継ぐ意志を表したのです(列王上1:5参照)。また、アブサロムは朝早く起き、城門への道の傍らに立ちました。争いがあり、王に裁定を求めに来る者をだれかれなく呼び止めて、その出身地を尋ね、「僕はイスラエル諸部族の一つに属しています」と答えると、アブサロムはその人に向かってこう言うことにしていました。「いいか。お前の訴えは正しいし、弁護できる。だがあの王の下では聞いてくれる者はいない」。当時、王は最高裁判官でもありました。かつてモーセが大きな事件だけを裁いていたように、ダビデも大きな事件だけを裁いていたのです(出エジプト18章参照)。地方の裁判所の裁きに納得できない者が、王に裁いてもらおうと上告してきたのでしょう。アブサロムは、その者たちの訴えを「正しいし、弁護できる」と言います。彼らが聞きたい言葉を語るのです。そして、「だがあの王のもとでは聞いてくれる者はいない」と、ダビデ王が正しい裁きをする能力がないかのように中傷するのです。これは、前々回学んだ、テコアの女の言葉と対照的ですね。テコアの女は、「主君である王様は、神の御使いのように善と悪を聞き分けられます」と語りました(14:17)。しかし、アブサロムは、「あの王の下では聞いてくれる者はいない」と言うのです。アブサロムは、こうも言いました。「わたしがこの地の裁き人であれば、争い事や申し立てのある者を皆、正当に裁いてやれるのに」。このように、アブサロムは自分を売り込むわけです。また、アブサロムは自分に近づいてくる者がいれば、手を差し伸べて彼を抱き、口づけしました。王子であるアブサロムから、このように親しくされれば、その人はアブサロムに好意をいだいたことでしょう。そのようにして、アブサロムはイスラエルの人々の心を盗み取ったのです。アブサロムは、自分が王になるには、イスラエルの人々の支持が必要であることを知っていたのです。

 7節に「四十歳になった年の終わりに」とありますが、新しい翻訳聖書、聖書協会共同訳は、「それから四年の月日が過ぎた」と翻訳しています(新改訳2017も「四年たって」と翻訳している)。ヘブライ語聖書には、40年と記されているのですが、そのギリシャ語訳聖書には4年と記されています。それで、聖書協会共同訳は、ギリシャ語訳聖書の4年を採用して、「それから四年の月日が過ぎた」と翻訳したのです。アブサロムは、4年もの間、王の裁定を求めてやってくる人々の心を盗み続けていたのです。そのような周到な準備の後で、アブサロムは、父であり、王であるダビデにこう願います。「主への誓願を果たすため、ヘブロンに行かせてください。僕はアラムのゲシュルに滞在していたとき、もし主がわたしをエルサレムに連れ戻してくださるなら主に仕える、と誓いました」。アブサロムは、「ゲシュルからエルサレムに帰って来たら、主に感謝を表すために、生け贄を献げて礼拝することを誓っていた」と言うのです。アブサロムがゲシュルから帰って来て、すでに6年が過ぎているので、今更という気がします(14:28の「2年」と15:7「4年」で、合計6年)。けれども、王は「平和に行ってくるように」と言って、アブサロムを送り出しました。

 アブサロムはイスラエルの全部族に密使(秘密の任務を帯びて、ひそかにつかわされる使者)を送り、角笛の音を合図に、「アブサロムがヘブロンで王となった」と言うように命じていました。ヘブロンは、アブサロムが生まれた場所であり、かつてダビデが王となった場所でした。そのヘブロンで、アブサロムは王となったのです。このとき、エルサレムから200人の者がアブサロムと共に、ヘブロンに来ていました。彼らは、ヘブロンで主を礼拝するという招きに応じただけで、何も知りませんでした。しかし、その何も知らない200人の者は、今やアブサロムを支持することを余儀なくされたのです。12節に、「いけにえをささげるにあたって」とありますから、アブサロムは、ダビデ王に言ったとおり、主に仕えました。しかし、それはゲシュルからエルサレムに戻って来たことの感謝ではなくて、イスラエルの王となったことへの感謝であったのです。アブサロムは使いを送り、ダビデの顧問であるギロ人アヒトフェルを彼の町ギロから迎えました(アヒトフェルは「わが兄弟は愚か者である」の意なので、元々は別の名前であろう)。ダビデの重臣の中に、アブサロムを支持する者がいたのです。ただし、アヒトフェルは、彼の町ギロから迎えられたとあるので、現役を退いていたようです。どうして、アヒトフェルは、ダビデを見かぎり、アブサロムに付いたのでしょうか。考えられる一つのことは、アヒトフェルがバト・シェバの祖父であったということです(11:3「エリアムの娘バト・シェバ」、23:34「アヒトフェルの子エリアム、ギロ人」参照)。アヒトフェルはバト・シェバの祖父として、ダビデが犯した姦淫と殺人の罪を赦せなかったのだと思います。それで、アヒトフェルは、アブサロムの顧問となったのです。このように、陰謀(ひそかにたくらむ悪い計画)は固められてゆき、アブサロムのもとに集まる民は次第に数を増しました。

 イスラエル人の心はアブサロムに移っているという知らせが、エルサレムにいるダビデのもとに届きます。ダビデは、家臣全員にこう言います。「直ちに逃れよう。アブサロムを避けられなくなってはいけない。我々が急がなければ、アブサロムがすぐに我々に追いつき、危害を与え、この都を剣にかけるだろう」。ダビデは、「すぐに逃げよう」と言いました。ダビデは、息子であるアブサロムと戦いたくなかったようです。また、ダビデは、エルサレムの町を戦場にしたくなったようです。自分たちが逃げなければ、エルサレムが戦場となり、町は破壊され、多くの死人がでます。そうならないように、「すぐ逃げよう」とダビデは言うのです。家臣たちは、「主君、王よ、僕たちはすべてご判断のとおりにいたします」と言いました。こうして王は出発し、王宮の者が皆、その後に従いました。この「王宮の者」の中に、ダビデの家族、妻たちや息子たちや娘たちも含まれています。しかし、ダビデは、王宮を守らせるために、十人の側女を残しました。ダビデは、側女なら殺されずに済むだろうと考えたようです。ダビデは、側女を残すことによって、自分が戻って来る意志を表したのです。後に、アヒトフェルの助言により、アブサロムは、白昼に、この側女と床を共にします(16:22参照)。そのようにして、ナタンの預言が実現することになるのです。第12章9節から12節までをお読みします。

 なぜ主の言葉を侮り、わたしの意に背くことをしたのか。あなたはヘト人ウリヤを剣にかけ、その妻を奪って自分の妻とした。ウリヤをアンモン人の剣で殺したのはあなただ。それゆえ、剣はとこしえにあなたの家から去らないであろう。あなたがわたしを侮り、ヘト人ウリヤの妻を奪って自分の妻としたからだ。』主はこう言われる。『見よ、わたしはあなたの家の者の中からあなたに対して悪を働く者を起こそう。あなたの目の前で妻たちを取り上げ、あなたの隣人に与える。彼はこの太陽の下であなたの妻たちと床を共にするであろう。あなたは隠れて行ったが、わたしはこれを全イスラエルの前で、太陽の下で行う。』」

 主は、ダビデに、「見よ、わたしはあなたの家の者の中からあなたに対して悪を働く者を起こそう」と言われました。その悪を働く者こそ、ダビデの側女と床を共にする、息子アブサロムであるのです。「アブサロム」という名前は、「わが父は平和」という意味です。しかし、アブサロムは、父ダビデに、平和ではなく、争いをもたらす者となるのです。

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