アムノンとタマル 2022年8月03日(水曜 聖書と祈りの会)
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アムノンとタマル
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- 村田寿和 牧師
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サムエル記下 13章1節~22節
聖書の言葉
13:1 その後、こういうことがあった。ダビデの子アブサロムにタマルという美しい妹がいた。ダビデの子アムノンはタマルを愛していた。
13:2 しかしタマルは処女で、手出しをすることは思いもよらなかったので、妹タマルへの思いにアムノンは病気になりそうであった。
13:3 アムノンにはヨナダブという名の友人がいた。ヨナダブはダビデの兄弟シムアの息子で大変賢い男であった。
13:4 ヨナダブはアムノンに言った。「王子よ、朝ごとに君はやつれていく。どうかしたのか。どうして打ち明けないのだ。」アムノンは彼に言った。「兄弟アブサロムの妹タマルを愛しているのだ。」
13:5 ヨナダブは言った。「病気を装って床に就くとよい。父上が見舞いに来られたら、『妹タマルをよこしてください。何か食べ物を作らせます。わたしに見えるように、目の前で料理をさせてください。タマルの手から食べたいのです』と言ったらよい。」
13:6 アムノンは床に就き、病を装った。王が見舞いに来ると、アムノンは王に言った。「どうか妹のタマルをよこしてください。目の前でレビボット(『心』という菓子)を二つ作らせます。タマルの手から食べたいのです。」
13:7 ダビデは宮殿にいるタマルのもとに人をやって、兄アムノンの家に行き、料理をするように、と伝えさせた。
13:8 タマルが兄アムノンの家に来てみると、彼は床に就いていた。タマルは粉を取ってこね、アムノンの目の前でレビボットを作って焼き、
13:9 鍋を取って彼の前に出した。しかしアムノンは食べようとせず、そばにいた者を皆、出て行かせた。彼らが皆出て行くと、
13:10 アムノンはタマルに言った。「料理をこちらの部屋に持って来てくれ。お前の手から食べたいのだ。」タマルが、作ったレビボットを持って兄アムノンのいる部屋に入り、
13:11 彼に食べさせようと近づくと、アムノンはタマルを捕らえて言った。「妹よ、おいで。わたしと寝てくれ。」
13:12 タマルは言った。「いけません、兄上。わたしを辱めないでください。イスラエルでは許されないことです。愚かなことをなさらないでください。
13:13 わたしは、このような恥をどこへもって行けましょう。あなたも、イスラエルでは愚か者の一人になってしまいます。どうぞまず王にお話しください。王はあなたにわたしを与えるのを拒まれないでしょう。」
13:14 アムノンは彼女の言うことを聞こうとせず、力ずくで辱め、彼女と床を共にした。
13:15 そして、アムノンは激しい憎しみを彼女に覚えた。その憎しみは、彼女を愛したその愛よりも激しかった。アムノンは彼女に言った。「立て。出て行け。」
13:16 タマルは言った。「いいえ、わたしを追い出すのは、今なさったことよりも大きな悪です。」だがアムノンは聞き入れようともせず、
13:17 自分に仕える従者を呼び、「この女をここから追い出せ。追い出したら戸に錠をおろせ」と命じた。
13:18 タマルは未婚の王女のしきたりによって飾り付きの上着を着ていたが、アムノンに仕える従者が彼女を追い出し、背後で戸に錠をおろすと、
13:19 タマルは灰を頭にかぶり、まとっていた上着を引き裂き、手を頭に当てて嘆きの叫びをあげながら歩いて行った。
13:20 兄アブサロムは彼女に言った。「兄アムノンがお前と一緒だったのか。妹よ、今は何も言うな。彼はお前の兄だ。このことを心にかけてはいけない。」タマルは絶望して兄アブサロムの家に身を置いた。
13:21 ダビデ王は事の一部始終を聞き、激しく怒った。
13:22 アブサロムはアムノンに対して、いいとも悪いとも一切語らなかった。妹タマルを辱められ、アブサロムはアムノンを憎悪した。サムエル記下 13章1節~22節
メッセージ
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今朝は、『サムエル記下』の第13章1節から22節より、「アムノンとタマル」という題でお話しします。
ダビデの三男であるアブサロムには、タマルという美しい妹がいました。そのタマルをダビデの長男であるアムノンは愛していました。アムノンは長男ですから、王位継承の第一候補者です。そのアムノンが異母姉妹であるタマルを愛していたのです。しかし、タマルは処女で、手出しすることは思いもよりませんでした。未婚の王女はやたらに人前に出ないように厳しく躾けられ、宮殿で育てられました。いわゆる箱入り娘であったのです。それで、アムノンは手出しができず、妹タマルへの思いから、病気になりそうであったのです。アムノンは、いわゆる恋の病を患っていたのです。アムノンにはヨナダブという名の友人がいました。「ヨナダブは、ダビデの兄シムアの息子で賢い男であった」と記されています(サムエル上16:9「シャンマ」参照)ヨナダブはアムノンにこう言いました。「王子よ、朝ごとに君はやつれていく。どうかしたのか。どうして打ち明けないのだ」。アムノンは彼にこう言いました。「兄弟アブサロムの妹タマルを愛しているのだ」。すると、ヨナダブはこう言いました。「病気を装って床に就くとよい。父上が見舞いに来られたら、『妹タマルをよこしてください。何か食べ物を作らせます。わたしに見えるように、目の前で料理をさせてください。タマルの手から食べたいのです』と言ったらよい」。ここで、ヨナダブが授けている知恵は、アムノンがタマルと二人だけで会うための知恵です。それにしても、この策は、大胆な策であります。といいますのも、父であり、王であるダビデの口から、タマルに「アムノンのところへ行くように」言わせるからです。
アムノンは、ヨナダブに言われたとおり床に就き、病を装いました。王が見舞いに来ると、アムノンはこう言いました。「どうか妹のタマルをよこしてください。目の前でレビボット(『心』という菓子)を二つ作らせます。タマルの手から食べたいのです」。ダビデは、病気の息子の頼みとあって、そのとおりにしました。ダビデは、宮殿にいるタマルのもとに人をやって、兄アムノンの家に行き、料理をするように、と伝えさせました。タマルは、父であり王であるダビデの言葉に従って、兄アムノンの家に行きました。当時、王子はそれぞれに家を持っていたようです。タマルがアムノンの家に来てみると、彼は床についていました。タマルは粉を取ってこね、アムノンの目の前でレビボットを作って焼き、鍋を取って彼の前に出しました。しかし、アムノンは食べようとしませんでした。アムノンがタマルの作った心という菓子を食べなかったことは象徴的でありますね。アムノンが欲しいのはタマルの心ではなく、タマルの体であったからです。アムノンは、そばにいた者を皆、出て行かせました。彼らが皆、出て行くと、アムノンはタマルにこう言いました。「料理をこちらの部屋に持って来てくれ。お前の手から食べたいのだ」。タマルがレビボットを持って兄アムノンのいる部屋に入り、彼に食べさせようと近づくと、アムノンはタマルを捕らえてこう言いました。「妹よ、おいで。わたしと寝てくれ」。それに対して、タマルはこう言いました。「いけません。兄上。わたしを辱めないでください。イスラエルでは許されないことです。愚かなことをなさらないでください。わたしは、このような恥をどこへもって行けましょう。あなたも、イスラエルでは愚か者の一人になってしまいます。どうぞまず王にお話しください。王はあなたにわたしを与えるのを拒まれないでしょう」。ここで問題となっているのは、アムノンが異母姉妹であるタマルと関係を持つことではなく、アムノンが力ずくでタマルを辱ようとしていることです。『創世記』の第20章12節によると、アブラハムの妻サラは、アブラハムの異母姉妹でありました。それゆえ、タマルは、アムノンに、「王はあなたにわたしを与えるのを拒まれないでしょう」と言ったのです。イスラエルで許されないこと、それは男が女を力ずくで辱めることです。そのようなことをすれば、王位継承の第一候補者であるアムノンは愚か者になり、タマルは持って行き場のない恥を被ることになります。それよりも、王に話して許しを得、結婚すればよいのです。このタマルの言葉はもっともな言葉ですね。しかし、アムノンは彼女の言うことを聞かず、力ずくで辱め、彼女と床を共にしました。アムノンは、肉欲に支配されてしまったのです。
アムノンは激しい憎しみをタマルに覚えました。「その憎しみは、彼女を愛したその愛よりも激しかった」と記されています。アムノンの愛は、男女の性的な愛ですね。アムノンはタマルを力ずくで辱め、男女の性的な愛の欲求を満たしました。すると、アムノンはタマルを激しく憎んだのです。自分にそのような行動を取らせたタマルを憎んだのです。アムノンは、タマルにこう言いました。「立て。出て行け」。それに対して、タマルはこう言いました。「いいえ、わたしを追い出すのは、今なさったことよりも大きな悪です」。律法によれば、ある男が処女の娘を辱めた場合、結納金を払って、彼女を妻としなければなりませんでした(申命22:28、29参照)。しかし、アムノンは、処女であるタマルを辱めたにもかかわらず、彼女を追い出そうとするのです。そして、そのことは、タマルを辱めたことよりも大きな悪であるのです。アムノンは聞き入れようとせず、従者を呼び、「この女をここから追い出せ。追い出したら戸に錠をおろせ」と命じました。アムノンは、タマルを「この女」呼ばわりして、追い出してしまうのです。このことは、タマルのことをまったく考えない、無責任で自分勝手な最低な行いであります。そして、このような男がダビデの長男であったのです。
タマルは未婚の王女のしきたりによって飾り付きの上着を着ていました。しかし、アムノンに仕える従者が彼女を追い出し、背後で戸に錠を下ろすと、タマルは灰を頭にかぶり、まとっていた上着を引き裂き、手を頭に当てて嘆きの叫びをあげながら歩いて行ったのです。このタマルの振る舞いは、喪に服するときの振る舞いです。タマルは、自分をもはや結婚できない死んだも同然の身であると考え、嘆きの叫びを上げたのです。
兄アブサロムはタマルにこう言いました。「兄アムノンがお前と一緒だったのか。妹よ、今は何も言うな。彼はお前の兄だ。このことを心にかけてはいけない」。このように、アブサロムはタマルを慰めたのです。タマルは絶望して兄アブサロムの家に身を置きました。辱められ、処女のしるしを失ったタマルは、結婚する希望を奪われ、やもめのように暮らすようになったのです。父であり王であるダビデは、事の一部始終を聞いて、激しく怒りました。ダビデは、激しく怒りましたが、何もしませんでした。ヘブライ語聖書のギリシア語訳である70人訳聖書は、次のように補足しています。「しかし、彼は息子アムノンを罰することはなかった。アムノンは長男だったので、ダビデは彼を愛していたからである」(聖書協会共同訳参照)。アブサロムはアムノンに対して、いいとも悪いとも一切語りませんでした。アブサロムは語ることができないほどに、アムノンを憎悪していたのです。