2022年12月25日 朝の礼拝「喜びの星が輝くとき」

　皆さんがよくご存じの「家畜小屋で生まれて飼い葉おけに寝かされているイエス」は、主にルカ福音書のクリスマス物語の中で描かれています。今日読んだマタイ福音書は、主イエスの誕生について、このお方が「ヘロデ王の時代」に「ユダヤのベツレヘム」でお生まれになったという二つの点だけを記しています。そしてこの時、「ユダヤ人の王が生まれた」という知らせをもたらしたのは、東の国からやって来た占星術の学者たちでした。しかし「偽りのユダヤの王」であったヘロデにとってこの知らせは、その真の王によって自分の地位や権力が脅かされるかも知れないという不安と恐れを引き起こしたのです。
　ヘロデ王は元々猜疑心が強く、また権力に執着するタイプの人物でした。エルサレムに住むユダヤ人たちも、そのようなヘロデの性格をよく知っていましたから、「真の王が生まれた」という知らせを聞いたヘロデが、恐れと嫉妬から何をするか分からないと考えて不安を抱いたのです。その不安は、この後の16節以下で現実のものとなります。
　そして祭司長たちや律法学者たちもまた、東方の博士たちのもたらした「ユダヤの王が生まれた」という知らせを聞きましたが、何も行動しようとはしませんでした。「占星術の学者」は、英語の「マジック」という言葉の語源となったギリシャ語で「魔術」「魔術師」という意味も持っています。旧約の掟では、占いや魔術は固く禁じられていましたから、祭司や律法学者たちは、自分たちをさしおいて、外国人の「魔術師」たちにユダヤの王の誕生が知らされる訳がないと考えたのではないでしょうか。
　こうして、神の民であるはずのユダヤ人たちは、この「自分たちの真の王がお生まれになった」という知らせを聞いても、誰もそれを信じようとも確かめようともしませんでした。こうして、このマタイ福音書はイエス・キリストの誕生の場面を直接描くことはしない代わりに、その「真の王の誕生の知らせ」を聞いた人々が、どのような反応をしたかを詳しく描き出しています。

　世間で祝われているクリスマスには、本来の主役であるはずの「真の王」はどこにもおられません。「しかし、今朝こうしてクリスマスの日に礼拝に来ている私たちは、そういう世の人々とは違う。私たちはあの東の国から来た博士と同じように、イエスの誕生を聞いて喜ぶ者なのだ」こういうメッセージを今朝の物語から受け取ることも出来るかもしれません。けれども本当にそんな風に単純に受け取ってよいのでしょうか。　
　私たちは自分の人生や将来に対して思い描いている人生設計があり、人生において成し遂げたい夢や目標に向って日々歩んでいます。ところがその私たちの人生にある日、「真の王が生まれる」と告げられて、「あなたの人生の王座を、その真の王に明け渡しなさい」と要求されたとしたら、私たちは本当に喜んで自分の王座を明け渡すことが出来るでしょうか。信仰者となって、キリストを真の王としてお迎えした今も、もしかしたらあのヘロデやユダヤ人たちと同じよう、自分の人生の王座を主イエスに委ねることに、恐れや不安を感じることがあるのではないでしょうか。

　イエス・キリストがお生まれになられた「ヘロデの時代」、それは決して遠い昔の、外国の王様が支配していた時代だけを指しているのではありません。私たちの世界には、今も権力者たちによって戦争や貧しさに苦しんでいる人がいます。しかしそういう権力者が人々を苦しめている時代が「ヘロデの時代」なのでもありません。「自分が自分の王として君臨したい」と願い、今も真の王にその王座を明け渡すのを拒もうとする私たちの心、それが「ヘロデの時代」なのです。そしてその「真の王を喜んで迎え入れることの出来ない」罪人である私たちを、その罪から救うために、その「ヘロデの時代」のただ中にお生まれになられた救い主こそ、イエス・キリストというお方なのです。ここにクリスマスの喜びのメッセージがあります。

　そこで、もう一度マタイの物語に目を留めると、神の民であるユダヤ人たちは、真の王の誕生の知らせを聞いてもただ不安を募らせるだけでしたが、しかし外国人である東の国の博士たちだけが唯一、このお方の誕生を喜ぶことが出来ました。博士たちはエルサレムを離れると再び星に導かれて、そしてついに主イエスがおられる場所へと辿り着きました。そこで彼らはその星が場所を指し示した時に、まだ実際には幼子を見ていませんでしたけれども、しかしもう既に大きな喜びが心に溢れたのです。
　そして家に入って、そこに眠っていた幼子を礼拝し、自分たちの持っていた宝物を差し出しました。「黄金、乳香、没薬」それらは当時、王族や皇帝に捧げられていた品々でした。そしてもしかしたらそれらの品物は、博士たちが占星術のために使っていた商売道具であったかも知れません。彼らはそれをしかし惜しげもなく幼子の前に差し出して、この真の王に自分たちの王座を明け渡したのです。真の礼拝とは、私たちがこの主イエスを真の王として自分自身の人生にお迎えし、このお方に自分を明け渡すことから始まるのです。それこそが私たちが捧げるべき真の礼拝です。そしてクリスマスの時に、神の民のユダヤ人ではなく外国人であった博士たちを、この真の礼拝へと導いたのが、彼らが遠い東の国で見た「ベツレヘムの星」でした。彼らはその星の不思議な導きによってユダヤの王を礼拝するために旅立ったのです。

　ではこの「ベツレヘムの星」とは一体何でしょうか。ここでマタイが念頭に置いているのは、恐らく旧約聖書の民数記24章17節（旧約256頁）の御言葉であると思われます。この旧約に預言されている「神の民を救うためにイスラエルから現れる一つの星」を、マタイはこのクリスマスに現れた「星」を重ね合わせて見ているのです。そしてこの神の救いの約束が確かに成し遂げられたというしるしは、神の言葉の書物である聖書を通して、私たちキリストの教会に与えられているのです。この星は今や、天の夜空にではなく、私たち教会の上に輝いているのです。いや私たち教会こそが救い主がこの世界に来られたことを人々に告げ知らせる「喜びの星」なのです。
　キリストは、誰もが自分自身を神としているこの世界、「ヘロデの時代」にお生まれになられました。キリストを救い主として信じた私たちの心にもなお、自分を自分の王とする「ヘロデの時代」が残り続けています。しかし神はその私たちの心に御言葉の光を輝かせて、今朝もこうして私たちをキリストを王としてお迎えする真の礼拝へと導いてくださいました。この喜びの星に導かれて主イエスに真の礼拝を捧げる時に、クリスマスの喜びは今日この時だけでなく、いつも私たちの心の中に湧き溢れて、私たちの心を明るく照らし出すのです。